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0.01の距離 30

 いつもミントに身だしなみに気を付けるようにと言っているのに、ヨレヨレなのも酷い。 「悪いな……落ち着いたらかかった分の金は全部返すから」 「そうしてくれるとありがたいけど……大丈夫?」  鏡越しに心配そうな佐久間の目と視線が合って、肯定すればいいのにできなかった。  ミントにしてしまったことを放り出してそこから逃げて、逃げて……逃げて…………  気分は逃亡犯だ。 「その……家に帰るの、ついていってあげようか?」  まるで小さな子供に対するような言葉に、曖昧な表情を返しながら髭を剃っていく。 「このままじゃ、体壊すよ?」 「……」 「それもあり みたいなこと言ったらダメだからね」  口を開く前に言われてしまうと何も言えず、眉を八の字にしている佐久間に向き直った。  財布も持たずに飛び出した俺を助けてくれた佐久間へ、恩を仇で返すことはできない。 「ありがとう、でも……これは自分の問題だから」  自分でどうにかしないといけない のだけれど、謝るための言葉がわからなかった。  一緒に暮らしているとはいえ大男のαに力ずくで襲われて、ミントはどれほど怖い思いをしただろうと思うとどんなことでもして謝罪したかった……が、それと同時に顔を合わせて再び泣かれてしまうと、もうそこで俺は人生を終えてしまうかもしれない怖さがあって……  加害者が怯えて謝ることもできないなんて、ありえないと思うもミントのことが怖くてしかたがない。 「いや、……ミントに嫌われることが、怖い」  排水溝に流されていく細かな髭を眺めながらポツンと呟いて項垂れた。    ◆   ◆   ◆    あが と自分のいびきで目が覚める。  布団ではなく畳の上で寝こけていたからか体中が痛くて…… 「……布団で寝てないってことは、まこちゃ 信さま帰ってきてないんか」  まこちゃんが帰ってきてたら絶対にオレを布団で寝かせるはずだから、畳の上で目が覚めたってことは帰ってきてない証拠だった。  下敷きにしていたまこちゃんの服の匂いも少し薄れてきていて、主不在の寂しさを強調してくる。  仕方なくもそもそもそ……と服の中に潜り込んで、少しでも濃いまこちゃんの香りを見つけてから再びうとうとと目を閉じる。 「信さまぁ、お腹空きましたです」  こんなにも空腹を感じるのは旦那さまの屋敷に引き取られた時ぶりだ。  それでもまだ体が痛くないだけ随分とマシだし、食べようと思えば冷蔵庫に奥さまが持ってきてくれた食料があるんだから、贅沢な話なのだけれど。  それでも、まこちゃんが「食べろ」って出してくれたご飯以外は食べたいと思わないのだから仕方ない。

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