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0.01の距離 33

 ふわふわとした心地のまま、木に縋ってなんとか立ち上がる。  親に電話をすれば迎えに来てくれるだろうけれど、連れて帰られるのは旦那さまの屋敷の方だ。  それならオレは、どれだけしんどくてもまこちゃんの匂いだけがするあの部屋に帰りたい。  まこちゃんの服と布団を引っ張り出して、その中でじっとしてたらきっとこの調子の悪い、熱っぽいのは治るはず。  それとも、ここでまこちゃんって声を上げて、戻ってきたまこちゃんに抱き留めてもらえたら……きっとオレは幸せになれる。 「……戻って、きて、くれないかなぁ」  いつもなら、ちょっとグダグダしてたら嫌になるくらい構ってくるのに……  でも、傍にあんな可愛いΩがいるんならしかたがない。  ……しかたがない。  まこちゃんがオレだけを見てくれるって信じて、胡坐をかいていたせいなんだろう。 「……かえろ」  ぽつんと呟いた声なのに熱がこもっているのがわかる。  お腹がぺこぺこなのに熱まで出しちゃったら、本当に屋敷に連れ戻されるかもしれないから、急いでアパートに戻ろうと芝生の上を駆け出そうとして…… 「ぅえ?」  足を取られてつんのめる。  何に突っかかったかっていうよりは空気に引っかかった。  ぐるんって回った視界に、倒れ込むってひやりとした瞬間に大きな手がオレを抱き留めてくれた。 「あっぶな!」  上がった声はまこちゃんより少し高い。  んでもって、手はまこちゃんよりも小さい。  明らかにまこちゃんじゃない人がオレを支えて驚いている。 「はぇ?」 「ぅわ、あっつ!」  その人が声を上げると、傍にもう一人いたのか「大丈夫ー?」って声が返ってきた。  倒れかけて空を見上げたままのオレの視界に二人の男の人の顔がにょっきり出てきて、きょとんとした顔で覗き込む。   「君、調子悪いんじゃない?」 「あ、ホントだ。顔真っ赤だし、やばそう」 「え……」  自分ではアパートに自力で帰れるくらいって思ってたけど、他の人から言われると途端に具合悪く感じるアレで、なんだか本当に病気な気がしてくる。 「保健室連れて行ってあげようか?」 「あ、えっと、オレ、病気? かな?」    息はしにくいし、絶対に熱がある。    なにより、お腹の下の方がっぎゅって痛むような感じがするから、もしかしたら胃腸炎とかそんな感じなのかも? 「保健室ならベッドもあるし、ちょっと横になったらよくなるよ」  え? え? って思ってるうちに二人の手でぐいぐい引っ張られるように連れていかれて……足がもつれて言うことを聞かないっていうのに、どんどんわけのわからない場所に連れていかれる。

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