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0.01の距離 34
「え……あ……?」
絡まる脚では抵抗もできなくて……胃腸炎なら保健室よりもトイレの場所を教えておいて欲しいなぁって思って、そこでやっと「放して」って言葉を口にした。
「なんで?」
「えっと……え?」
二人の、オレを引きずっていくように連れていく力は病人に対するものじゃないくらい力強くて、なんだかちょっと……なんだか……嫌な感じだ。
ふらつきながら踏ん張ろうとすると、一人が引っ張り、一人が押してくるものだから抵抗もできなくて、ぐらんぐらんと頭が揺れる。
熱のせいか頭の中がぐるぐるして、その熱が胸や腹に這い寄るようにして忍び寄ってくるから、時折ガクンって力が抜けそうになる。
「ゃ、あの、家にれんらく……して、きて、もら 」
すん と耳元で音がした。
「 ────っ⁉」
その瞬間、体中に鳥肌が立つ。
今まで感じたことのないような悪寒は、風邪をひいて熱のせいでぶるぶると震えていた時よりもひどい。
ひゃ と漏れた声がかすれて消えた。
「きみ、オメガだろ?」
熱い息を吐きかけながら尋ねた声に、とっさに首元に手を遣る。
いつもは、まこちゃんのいない外に出る時は必ずつけていたネックガードがなくて……アレは首筋を守るためのものでもあるけれど、同時にΩだって言って回るものでもあった。
でも、それがない今、どうして知られたのか……
「 あ、よかった。思ったより可愛い顔してる。そんな眼鏡にジャージなんて格好してるから、どうかなって思ってたんだよね」
さっと視界が揺れて眼鏡が取り上げられる。
「な、に?」
二人の体温がぎゅっとオレを挟み込む。
それはまるで肉の壁に押しつぶされそうな恐怖感をオレに与えてきて、ひぃ とまた声が漏れた。
「なん なに? オレ、オメガなんて ぃ、いってな っ」
男の手がさっと口を覆い、オレの言葉は砕かれる。
見開いた目に映ったのはオレでもわかる保健室じゃないドアだ。
溺れた時のように手を伸ばしてドアの縁にしがみつこうとするけれど、爪の先がわずかにかすっただけだった。
痺れるような痛みが指先に走って怯んだオレを、二人は好機とばかりにあっさりと部屋の中へと引きずり込む。
「あんた、ヒートきてるだろ?」
「⁉」
尋ねられて、考える前に慌てて首を振る。
そんなはずはない と言い返したいのに口を覆われてできず、二人に向かって必死にんーんーと声を上げた。
オレは出来損ないのΩで、フェロモンは出ているのに発情期もこない。だから、この二人が何か勘違いしているんだってすぐに分かった。
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