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0.01の距離 35

 そんなことあり得ないって。  自分自身が一番わかっているのに、口を塞がれているだけじゃない燻る熱に邪魔されて言葉が出ない。  誤解を解かないとってジタバタと手足を振り回してみると、「邪魔すんな!」って拳を振り上げられた。  強く握った拳は大きく見えて、落ちる影は何よりも昏くオレに落ちてくる。  もう、昔のことだから全然覚えてないって思ってたのに、そういうことって体に沁みついちゃってるみたいだ。  殴られる前に痛みの恐怖で体が動かなくなって、避けることも抵抗することもないままに頬を殴られた。  痛いとかよりも怖いって感情が先に立って、ガチ って奥歯の鳴る音が脳味噌の中で響いた。 「ちょ なんで殴るんだよ、怯えたら面白くないだろー?」 「違う違う! ちょっとぐらい怖がってる方が可愛げがあるだろ?」  二人してきひひ と笑い合う声がぼんやりと遠くに聞こえて、熱い体に反して胸の中がすっと冷たくなる。  大きい男は怖くって、大きな拳は痛くって、おとうさんが庇ってくれてもやっぱり痛くて堪らなくて……借金を作って逃げた父親にいつも殴られていた記憶は、オレの体を縫い付けて動けなくしてしまう。 「  っ!  !」  悲鳴が喉でつっかえる。  男二人は、殴ったからオレが大人しくなったんだろうって思ったらしくて、ニヤニヤと笑いながらジャージをはがしにかかる。  着馴染んだ服が無理矢理に引っ張られてビッて変な音を立てる。  名札を縫い付けた糸が切れてもうめちゃくちゃだ。  高校に入学してから急に背が伸びたまこちゃんが、もう着れないからってくれた大事な服なのに! 「はは、糸引いてら」 「めっちゃ期待してたの? だから、こんな状態なのに大学きてた?」  笑われて……ふざけんなって反論することだってできたはずなのに、震えた唇はうまく動いてくれない。  大きな男なら、まこちゃんで慣れっこなはずなのに、まこちゃんに比べたらちっさいこの男達が怖くて怖くて……  無遠慮に体中を撫で回されて、まるで物のように床に押し付けられて、服をはぎ取られていくのに抵抗ができない。  この後にナニが起こるのか。  この後にナニをされるのか。  学校でも習ったし、おとうさんからも気を付けるようにってきつく言われていたから知っている。  ぐるぐると腹の下に渦巻く熱が、オレの意思を裏切って二人に体を差し出してしまえと囁いているような気がして、ぎゅうっと拳に力を入れた。  砂漠で呼吸をしているような、吸っても吐いても熱い空気が移動するだけの気が狂いそうな感覚。    

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