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0.01の距離 37
は は と上がる息と男達が漏らすαのフェロモンと身の内の焼く熱に抗って這うように扉へと伸ばす。
「ナニしてんのー?」
「逃げんなって言っても、逃げられないだろうけど」
引きずり下ろされたズボンを掴まれて、オモチャのように引きずり戻されてしまうと、なんとか這って移動した距離があっと言う間にゼロになる。
「口が自慢なんだっけ?」
男がそう言いながら前を寛げた瞬間、濃く鼻をついたαのフェロモンに意識を横殴りにされる。
興奮した際に出されたフェロモンは濃くて熱くて、そして乱暴で。
腕の力が抜けてガツン と床に頭を打ち付けた。
体のどこもかしこもどろどろに溶けてしまったようで、指の一本もまともに動かせない。
辛うじて息はしているけれど、開いたままの唇からは涎が垂れているのがわかった。
太腿を掴まれて引き寄せられ、顎を押さえられて上を向かされる。
力の入らない体は、苦しいと思うのにその体勢を受け入れてしまって……嫌な気分になって当然のはずなのに、心のどこかは今から犯されるんだってことに嬉しさを感じてて……
「 ゃ、あ 」
男の指がオレの口をこじ開ける。
嫌なのに、抵抗する術はもうなくて……
「 まこ、ちゃ まこちゃん……たすけ 」
もう駄目だって、涙がぽとんと落ちた。
────ゴッ
体に響く鈍い音は初めて聞くような音をしていた。
オレもそうだったけれど、男達もはっと正気に戻った顔になって空気を震わせる扉の方へと目を遣る。
その視線の先で……頑丈な扉が震えて、へしゃげて、押しつぶされて……
「あ……ぁ?」
「なん 」
ぽかんと声を上げる目の前で、二枚の引き戸が人の手で壊されていく。
「 どけろ」
ぎぎぎ と金属の軋む音を立てながら、太い腕が引き戸を振り上げ……人とは思えない力で振り投げる。
オレへの衝撃はわずかな風だけだったけれど、オレの頭を掴んでいた男は歪な形の板になった扉と共に吹き飛ばされ……
悲鳴を上げる足側の男の顔が、扉の直撃で歪んでそのまま倒れ込むのをぼんやりと眺める。
物の詰まった棚を担ぎ上げて投げつけようとする様子は、まるで鬼のようだ。
「 まこ、ちゃ 」
上手く動かないけれど、名前を呼んで必死に手を動かそうとすると、燃えるように険しかった目がオレを見て崩れた。
泣きそうな……うぅん、泣きながら棚を放り出してオレへと駆け寄ってくれる。
一瞬だけ戸惑ったみたいだったけど、自分の服を脱いで被せてから抱き上げてくれた。
大きくて熱い体は男達と変わらないのに、まこちゃんの腕の中はほっと安心できて全然別物だ。
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