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「あいつにはまだ甲斐性がないのだから」
「あー……でも、まこちゃ 信さまは真面目な人ですから、きちんと就職もするだろうし 」
「それじゃあ子供が待てんだろう」
旦那さまはむっと厳しい顔をして低く言う。
はぇ? 子供の話なんて、そんな先の話をされてもって感じ。
まずはまこちゃんが大学卒業しなきゃだし、院に進むなら子供のことを考えるのはそれっからってことだし。当分は二人で新婚気分でラブラブする予定だ。
気が早いけど、旦那さまなりにオレ達のことを認めてくださっての言葉なんだろうなって思うと、ウキウキしてくる。
「 で、性別はどっちなんだ」
「へ⁉」
「ちょ 聞き方! それにまだわかんないですよ!」
奥さまにぺちぺちぺちって腕を叩かれて、旦那さまはちょっと気まずそうに「そうか」って険しい顔を更に険しくさせるけど……
「主治医にこだわりがなければ瀬能先生に話を通す。離れを急ぎで建てさせているから、自立できるようになるまではそこで暮らすといい、親が近くの方が安心するだろう」
「はぇ……? なんのお話しでしょか? オレはあのアパートで暮らそうと思ってて 」
「あそこでは子供が怪我をする」
厳しい顔で見下ろされて、困り果てて奥さまに視線を遣った。
「あのぅ……子供のケガなんて、気が早いんじゃ……」
番になったばっかりだし、そりゃぁ旦那さまの子供で初めて番を持ったのがまこちゃんだから期待するのもわかるけど。
「年末年始に産まれるんだから、全然遅くはないでしょ?」
ニコニコ顔の奥さまにそう言われても……
「 産まれる⁉」
やっと動けるようになったまこちゃんが跳び起きて、這いずるようにオレの傍に来てお腹の辺りに手をかざす。
なんちゃらパワー的なものを送っているように見えなくもないけど、ぶるぶると震えてるからなんか違うんだろう。
「ごめ ミントごめんっそんな大事なこと知らずに今朝も無理させてっごめ っ」
「ナニ言ってんの?」
きょとーんとしているオレに、奥さまはちょっと困ったような顔をした。
「初めてのヒートは絶対妊娠するって知ってる?」
「はぇ⁉」
そんな話を聞いたような聞いてないような? 保体の授業かなんかだったとは思うけど、授業をまともに受けた記憶がなかったから朧気で……
まこちゃんが手をかざしているお腹を見下ろすけど、ぺったんこなそこに何か入ってるとか想像できない。
ぐるぐるぐるって回る頭の中で、避妊したっけどうだったっけ? って考えて……しようとしたけど、お互いの持ってた一個じゃ全然足りなかったし、そんな考えができる余裕もなかった。
緊急抑制剤を飲まなかったオレの頭はもうまこちゃんのものにして欲しいって、精液が欲しいってのでパンクしそうなほどで、そんなことに気を配ってなんていられなかった。
「えー……ええー……えー…………」
ちょっと呆れ顔の旦那さま達と、涙と血を流して喜んでるまこちゃんと……
オレに発情期が来たってこともそうだったけど、一気にいろんなことが起こりすぎて……なんか、なんかなんかもういろいろ、いっかなって思った。
END.
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