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落ち穂拾い的な ヒートの真相1
目の前にいるイケメンの先生は「瀬能」って名乗った。
何度かまこちゃんの家に来てたのを見たことがあるお医者さまだ。
「その年までヒートが来なかったって?」
「はい」
診察室の椅子はクルクル回ることができるから、ついつい回りたくなるのをぐっと堪える。
「フェロモン不全かな? 今まで診てもらったり……あ、診療記録に補足が残ってるな」
一応、以前に発情期が来ないことを調べてもらったことはあったけど、「次は半年後に診せて」って言われてそのまま忘れてたんだよね。
「……ああ、あー。え?そんなことある?」
お医者さまはパソコンの画面を見てぶつぶつ呟いて、しばし考えこんでからこちらを向いた。
「ヒートの前に信くんと喧嘩とかした?」
「ケンカですか?」
ケンカ……ケンカと言えばケンカかもしれないけど、どうなんだろう? せっかくいい感じだったのに、オレが風呂入ってないし歯も磨いてないからダメって言ったら雰囲気悪くなって……
「しばらく会わなかったりしなかった?」
「あ、しましたー」
お医者さまはその言葉と補足を見て納得したという顔をした。
だからどういうことなんだって説明を待っていたけれど、お医者さまは「じゃあ次は一月後にね」って言って手を振った。
◆ ◆ ◆
伸びた髪を緩くくくった背中が見えて、声をかけながら駆け寄る。
「阿川さん!」
相変わらず、少し色の悪い顔で振り返ると、眼鏡の奥の目を怪訝そうに細めた。
白衣に両手を突っ込んだまま、首を傾げて「何か?」と面倒そうだ。
「お聞きしたいことがあって、この患者なんですけれど補足を書いたのって阿川さんですよね?」
「どれ? ……あぁ、この患者か」
頷きながらタブレットに表示したカルテを覗き込んで、薄く唇の端に笑みを乗せる。
「少し前にヒートがきて 」
「ああ、信と距離ができたんでしょう」
面白そうに眉を少し上げると、阿川はコツコツと爪の先でタブレットの端を叩く。
「書いてあった通りでしょう? 信と物理的に距離を取ったらヒートが来るはずって」
「書いてありますけど……どうしてわかったんです?」
「ああ、この患者の頭の先から爪先まで、びっっっちり信のフェロモンでガードされてて、自分のフェロモンが漏れ出す隙がなかったんだ。そのせいでホルモンにも影響があったんじゃないかな?」
なんてことはないように言うけれど、そんな例は聞いたことがない。
「アルファのマーキングでヒートが軽くなる例があったでしょう。アレの行き過ぎな感じですね、寄るな触るな近づくなってね」
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