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落ち穂拾い的な ヒートの真相6

 俺の生活環境も変わったが、ミントの生活環境も変わった。しかも、体まで変わるんだからそのことに対する不安は俺以上だろう。  ミントの父親が母屋にずっといるとは言え、仕事中だからとはっきり言われてしまっているから甘えにも行けないだろうし……  独りで全部を抱え込まなくてはならない負担は、俺が考える以上にミントにのしかかっているんだと思う。 「  っ」  ずず と鼻を啜る音がして、ひくりひくりと肩が跳ねる。 「よし! ミント!」 「う?」 「俺は今日の夜から熱が出て、明日も起きてこれないくらい体調を崩している。咳も出てるから風邪ひいたのかもしれない」 「ん?」  何事だと顔を上げたミントの目の周りは赤くて、小さな雫が縁どるようについていた。  きっと、俺のしようとしていることは社会に出ようとしている人間としては間違っているんだろうけど、今こうして泣いているミントに対して「今度の休みは一日中一緒にいるから」とは言えなかった。  ミントは今寂しくて、今苦しんでいるんだから…… 「いいな?」 「う、ん?」 「だから、明日は大学もバイトも休みだ」  はっきりと言い切った俺に、ぱっと笑顔を見せたもののすぐにぷるぷると首を振る。 「ズル休みはダメだって」  そう言うミントに、高校時代のミントの出席態度を思い出させてやろうかと思ったがやめておいた。 「いやいや、ズルじゃない。俺は過労で倒れそう」  大げさに体の力を抜いてやれば、ミントは驚いたようだったけれどそろそろと顔を覗き込んで様子を見てくる。 「後、ミントが足りない」 「オレもまこちゃんが足りない」  ミントの言葉はちょっと俺の言葉に被るようで……同じように思ってくれてたのが嬉しい。  柔らかい頬を擦るとわずかに湿気た感触がして、それを乾かすように数度擦った。  少しくすぐったそうに身を捩るミントを引き寄せて抱き締めると、同じようにミントも抱き締め返してくれる。  やっと、俺達の間にあった薄い隔たりが無くなった気分だった。  ず と俺の体が引きずられる。  もちろん、日本人にはちょっとないサイズの俺を引きずっていける人間なんて限られてて…… 「おや  親父……俺っ調子悪くて寝て   きっと風邪だから   」 「妊夫に風邪がうつったらどうする。お前は母屋だ」 「っ⁉」  抗議の声を上げようとしたが、言い訳をすれば仮病で休んだことがバレてしまう。  あわあわとミントに手を伸ばそうとしたが当然どうにかできるわけもなくて……伸ばした手が空ぶって、俺達の間にはまたちょっとした距離ができてしまった。 END.  

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