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はいずる翼 4
「また……そんなことばっかり言うたら……」
あかん の言葉は舞い上がってしまって言えなかった。
双子で片割れである若菜はαで生まれて、同じ容姿のはずなのにどこか華やかでどこか美しくて、どこか人を惹きつける。
それに比べて同じのはずの自分はどこか愚鈍で、どこか醜くていつも侮蔑の対象だ。
何をしてもダメな子、それが自分を表す言葉だった。
「冗談で言ってると思う?」
目元を隠すような長い前髪の下から、真っ直ぐにオレを見つめる目は真摯で嘘を言っているようには思えない。
誰にも見向きもされないオレが、こんな人に構ってもらえて……それだけでも十分だった。
誰かの……あんなかっこいいαの視界に自分が入っていたのだと、思い出してはいまだにふわふわと夢見心地のようになってしまう。
人に見向きもされないこんな自分に価値があるのだと、自信を持てるようになる。
ローションやスキンを入れた籠を持ちながら、珍しくオレを指名した初入店者へ挨拶をする。
「初めましてぇ、みなわ言います~」
テンション高くはきはきと言ったが、客はびくりと肩を揺らして戸惑い、戸惑いのために噴き出した汗を手の甲で拭ってみせた。
やぼったい吊るしのスーツにくたびれて端のはげかけた通勤用のカバン。
痩せすぎなせいかスーツを着ているよりは、スーツに着られているという雰囲気がぴったりだった。
「あ ぇっと、名前は……」
「呼ぶだけやから、仮名でええよ?」
そう言うと客はあからさまにほっとした様子で顔を上げた。
緩やかな癖っ毛の前髪から覗く両目はけぶるほどの睫毛を湛えていて大きい。
髪で隠れていない頬から下の顔のパーツも整っていて、つんとしたピンク色の唇は透明感があって思わず触れたくなるようなみずみずしさがある。
「えっと、なんて名に……」
「中村ならナカさんとか、藤川だったらフジさんとかやな」
「 ────じゃあミクで」
「ミクちゃん?」
一瞬下の名前を言われたのかと思ったが、客の様子を見るにふざけているようではなくて、むしろ真剣に考えたことの結果だと信じられた。
「今日はようきてくれました、さ。部屋に案内しよか」
外を歩けない程度の透けた衣装を身につけた体ですり寄ろうとして、さっと距離を取られてしまう。
せめて手を と思うもその手も避けられてしまって……この客は、風俗店に来たくせに人肌を避けているようだった。
単に細い……と言うよりは、線が細い。
その線の細さには思い当たること……というか、わかることがあった。
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