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はいずる翼 6

「ミクちゃんは悪くなんてないんやから」    つい口を突いて出た言葉は和歌に繰り返し言われた言葉だ。 「  っ」    ふる と睫毛が震えてそろりと視線が持ち上がる。  その様子に、和歌もこんな気持ちになったんだろうか? とふと思った。  双子の姉はα。  双子の弟はΩ。  もうその段階で差があると言うのに、姉はなんでも器用にこなす質だったし人とのコミュニケーションをとるのもうまかった。  だから余計、オレのできなささが際立ったのか母の態度は若菜とオレとでは全然違った。  母は教育熱心だったせいか、成績の振るわないオレはよく叱られて外に放り出されて……見かねた和歌がこっそり匿ってくれていなかったら、オレは寒空の下で凍え死んでいたんじゃないかなって思うこともある。  オレの家庭事情を根掘り葉掘り聞くことはなかったけれど、冬に裸足で外に何時間も放り出されているってだけでどういう状況なのかは知っていたんだと思う。 「   んで、こっちにかかってくるから  」  和歌がペン先で指しながら丁寧に説明してくれて、授業では飲み込み切れなかった部分がするすると頭に入って来る。  嬉しいと同時に、和歌に手を取らせているんだってことが申し訳なくて……でも、こうして構ってくれることが嬉しくもあった。 「ん。ありがとぉ、和歌の説明よぉわかる」 「そう? じゃあここは?」  「ここはわかる」と返したかったが、それを飲み込んで首を横に振った。  そうすればもう少しだけでも傍に居られるから…… 「大学って何するところなん? 進路の話になったけど、よくわからんで  」 「遊ぶとこ って言ったら幻滅されるかな?」  クスクスっと笑って和歌はオレの手を取ってくすぐるように触れてくる。  それ以上何かしてくるわけじゃなかったけれど、こんなふうに触れてくる時が時々あった。  長い指の先端が爪の周りをくるくると撫で、ゆっくりと節を一つずつ確認するように触る。    人に触れられることにむずむずするようなくすぐったさがあったけれど、同時にもっと触れて欲しいって思いもあった。  和歌が傍にいると堪らなくいい香りがして、頭の芯をぐらぐらと揺さぶられるような気分にさせられて……  はっとなって慌てて手を引っ込める。 「ご ごめ  くすぐったいから」  弾くように手を引っ込めてしまって、和歌は気を悪くしたんじゃないかって思うと震えそうになる。 「触られるの いや?」  和歌の前髪がサラサラ と動いて、透明感のある瞳が窺うようにオレを見る。  オレよりも年上だし、頼りがいのあるαだっていうのにそうすると小さな子供のようだ。    

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