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はいずる翼 10

 隣に越してきた年上のα。  それだけで憧れるには十分だったのに、和歌は優しくて面倒見が良くてオレをダメとは言わなかった。  そんな和歌に対して惹かれるな という方が無茶な話で、オレなんかがって思うけれど好きになるのは止められなくて…… 「  あなた、顔が赤いわね」  急に伸びて来た母の手が顎を掴み、左右に頭を振らされてくらりと目が回った。  思わず壁に縋りついて倒れるのを堪えたけれど、母はオレの顔を睨みつけたまま不機嫌そうだ。  ねめつける目が、懸命に隠した和歌に惹かれる心を見つけ出そうとしているかのようだった。   「風邪、かも。学校で流行ってるから」 「風邪⁉」  はっと母は飛び上がった途端、いきなりガツン とした衝撃が脳味噌を揺らす。  振り抜かれた母の右手がゆっくりとした視界の中に見え、頬を張られたのだと気づいたのは勢いで壁にぶつかった頭が痺れから戻ってきてからだった。  ゆっくりと見上げた母は口元をハンカチで覆っていて、こちらを見下ろす目は冷ややかだ。 「若菜の受験があるのわかってるの⁉」 「  ぁ、うん」  同じ大学を受けるのだから、知っていて当然だ。  ぐわんぐわんとぶつけた衝撃で混乱する頭で、言い返しちゃいけない と自分になんとか言い聞かせる。 「それなのにこんな大事な時期に風邪を我が家に持ち込むなんてあり得ないでしょう⁉ 貴方は若菜のことを考えてあげているの⁉ 貴方はいつもそうやって若菜のことを危険に晒すけれど、優しい若菜はそんな貴方のことも尊重しようとしてくれているのはわかってる⁉」  

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