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はいずる翼 14

「冷たくて……気持ちいい」 「そっか。よかった」  オレを見下ろして柔らかに唇の端を緩めると、和歌は傍らに腰を下ろしてほっとした様子だ。  よく考えなくとも、いきなり倒れている人間と遭遇したら驚くし緊張するだろう、オレはどれだけ和歌に負担をかけたのかを考えて、慌てて体を起こした。   「ごめっ オレっ帰る!」 「おい!」  さっと伸びた手が強引にオレを布団に押さえつけて、濡れたタオルを再び額に乗せてくる。 「寝てるんだ。自分の状況をわかってるのか?」 「わ、わかっとる! 和歌んちに迷惑かけてんのと、家に……」  迷惑 ではない。    外に放り出したオレがいないと知って、母はなんと思うだろうか? 困りはしないだろう、むしろほっとするかもしれない。  怒っていないと思いたいけれど、それはオレの考えが甘すぎるというものだ。 「……し、心配? かけてるかも、やから」 「おばさんは   」  言いかけて和歌はぎゅっと口をへの字に曲げた。  何かを言いかけて無理矢理抑え込んだその様子に、母がすでに何かしでかしたのかもしれないって思う。  いや、思うっていうか…… 「動かす のも可哀想だから、ここで寝かせておいて欲しいって 」  和歌には珍しい歯切れの悪い物言いは……きっと言葉を選んでいるからだ。  そんな子放っておいてください と言われたか、知らないと言われたか……オレが倒れていたことを聞いて、少なくとも心配したというわけではなさそうだった。  姉と同じような待遇を望んでいるわけじゃなかったけれど、それでも周りの人間には体調を崩した子供に対する態度を見せて欲しかった。 「……喉は? 何か食べられそうか?」 「食欲は ない。けど……お水もらえるやろか」 「持ってくる。薬もあるから何か腹に入れた方がいいんだが」  和歌はちょっと顔をしかめて思案する様子を見せる。 「インスタントの粥でいいか? その……調理器具の類が一切なくて」 「そんな迷惑かけられへんよ! お水もらえたらそれでええから  っ」  ぐしゃ と髪を混ぜられて言葉が途切れる。  黙ったオレの頭を、少し骨ばった男っぽい指が撫ぜて……長い前髪の下から困ったような両目が覗いた。 「いいから、欲しいものを言って」 「……」  甘やかしたいんだ と口の中で呟くように言って、和歌は「水を持ってくる」って言って部屋を出てしまう。  いつも余裕ぶってお兄さん風を吹かすような雰囲気もあるのに、先程はどこか心細げに見えた。  調子が悪くて弱っているのは自分の方なのに、和歌の方が弱弱しく思えてくる。

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