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はいずる翼 15

 けれど、普段とは違う崩れた先に見えた表情に……体が苦しい状況なのに嬉しくて笑顔になってしまった。 「とりあえず、水」  だだだ と階段を駆け上がってきた和歌は畳の上にマグカップを置くと、未だに取り繕えていない顔で「買い物に行ってくるから!」とぶっきらぼうに言って出て行ってしまう。  さっきのことが、和歌自身も気まずかったのか恥ずかしかったのか……前髪で見えない横顔は普通だったけれど、耳たぶが少し赤かった。  和歌にとって、オレは近所の可哀想な子って位置だとばかり思ってて、それ以上にはならないだろうと決めつけていたけれど…… 「もうちょっと望んでも、ええんかなぁ」    冷たい水の入ったマグカップを頬にあてて、火照った頬を自覚した。  ばたん と階下で音がして、和歌が帰ってきたんだと思ったけれどそうじゃない様子だ。  階段を上って来る音がもっともったいぶったかのようにゆっくりで重い。  この家に何度も来ているけれど和歌以外の人がいたり、客が来たことはなくて、思わずはっと身を固くする。  さっと見回してもこの布団以外何もないこの部屋で、隠れる場所と言えば押し入れくらいだけれど…… 「 ────っ」  そこに隠れるべきかどうかともたもたしている内に、部屋のドアがさっと開かれて初老の男が顔を覗かせる。  身なりは悪くなくてスーツを着ていて……泥棒には見えなかったが、いかつい顔をしている男がいい人だとは決まっていない。 「  仙内はおらんのか」  唸るような低い声に思わず飛び上がりそうになる。 「こ、こんにちは。あの、あぇ  仙内さんは、買い物に行きま「はぁ、人に面倒をかけさせておいて」  どすん と足を踏み鳴らしながら言葉を遮られて、反射的に身が竦んだ。  この人が誰だという考えの前に、この男はヤバい と本能が訴えかけてくる。  人の話を聞かず、自分の考えが最優先で、自分以外の人間に感情や思考があるとは思っていない人間のソレは、母で幾度も経験したことだった。 「台下殿の息子だからと威張りくさって」  食いしばるように呻くと、男はイラついたように左右を見渡す。   そろり と身を引いて少しでも視界に入らないようにしようとした瞬間、 「なんだ、いたのか。いたのに挨拶もできんのか」  吐き捨てるようにそう言葉が降って来る。  頭が真っ白になったのは熱があったからとかそんなんじゃなくて、さっきオレが喋った挨拶がなかったことにされている……と言うか、オレの存在が意識に入ってなかったんだってわかったからだ。  

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