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はいずる翼 17

「それはオメガだというのに?」 「は?」 「オメガに薬なんて贅沢だ。そのへんに転がしておけばいい」  はぁ と溜息を吐きながらスーツの乱れを直して男は肩を竦める。 「何言って……」   「ソレもアルファの貴方に処方したものだ。オメガが飲んでも意味はない、無駄なことをさせないで欲しい」 「オメガの前に人間だろう⁉」 「オメガを人間と一緒に考えるのはいかがなものか」  和歌に抱えられたオレを見下ろす目は冷ややかで、人間を見る目じゃなかった。  ふふ となぜだかお互いに小さな笑いが零れる。  けれどそれはおかしいから出た笑いではなくて、乾いて縮んでしまった感情から出たものだ。 「ホント。昔はヤバいくらい人権なかったやん?」 「うん ……そうだったね」  お互いの指を絡めて、お互いの指先の冷たさを確認しながらなんてことはない話をする。 「まぁ、この街がおかしいっちゃおかしいんやけどな」  αとΩ……特にΩの住みやすい街を目指しているここが異常なんだと、ずっと住んでいると忘れそうになる。  外ではまだまだΩへの偏見は強いし、バース性じゃない人間には知識も浸透してないイメージだ。  それでも、人間だと言ってもらえるだけ住みよくなったのか…… 「僕もここに来るまで、普通に暮らせるとは思ってなかったかも」 「かもなん?」 「そんなことも考えられなかったって言うか  」  首の傷跡を擦りながらぼんやりと喋る姿は夢遊病患者のようで、オレは絡めたままだった右手にぎゅっと力を込めた。  そうするとミクがはっとして、夢から醒めたような表情でこちらを向く。  ベッドの上で肩が触れる距離で横並びに座って手を握る。  月に一度、半年かかってやっと詰めることのできた距離だった。  それでも、顔を見ながら踏み込まない他愛ない話なら戸惑いなく喋れるようになった。  それに、笑顔も。 「ここならオメガの働き口もあるし、ここにきてよかったと思う。みなちゃんともこうして会えたし」  これが安っぽいαのセリフだったなら鼻で笑ってやるところだけれど、ミクは純粋な心で言ってくれてるってわかってるから、くすぐったいような気分になる。 「その……同じオメガに言われてもだろうけど」 「うぅん。嬉しいで」  絡めた手にぎゅぎゅっとリズミカルに力を込めると、ミクはくすぐったそうに笑った。  そうしてると、少しだけ指先が熱くなってきて…… 「あの、今日はみなちゃんにお願いがあって」 「なん? このみなわが聞いちゃろう。あ、でも金の話は相談に乗れんでぇ?」  おどけて言ったというのに、ミクの顔は浮かない。

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