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はいずる翼 20
「な、なんなんそれ……っ」
じゃあどういうはずだったのか?
聞けば答えは返ってくるかもしれないけれど、和歌の今の様子だとオレの望んでいる答えとは程遠そうだった。
甲斐甲斐しく看病してくれる手つきと、庇ってくれた姿と……柔らかい唇の感触にわずかでも自分のことを好きでいてくれるんじゃないかって思っていた気持ちは、あっという間にしぼんで行ってしまう。
やっぱり、近所の可哀想なΩの子供が気にかかっただけだったのかって、へらりとした笑い顔を作ってしまった。
「こんなところじゃなくて、もっと雰囲気とかある と……思って……」
頭を抱え込んでそう呻くと、和歌ははっとしたように体を揺らす。
「ちが 違う。そうじゃなくてっ……っ、くそっ俺は子供相手に何言ってるんだか」
和歌は再び自分の髪をぐしゃぐしゃとかき混ぜると、自分一人ですっきりしたようないつもの顔でこちらを見た。
「昨日のことは忘れろ」
「なんでや」
「何もなかった」
「なんでや」
オレを見返す目はいつものクールぶっている和歌だ。
「なんでも何もない。まだ熱があるんだから寝てろ」
つんと言ってくる和歌に、オレは思い切って抱き着いたんだった。
改めて思えば、ミクに言ったロマンティック云々はあの時のことがあって出た言葉なのかもしれないな なんて思う。
仕事で幾人とも体を重ねて来たけれど、どんなに塗り重ねたとしても自分の根底にあるのは和歌とのことなのだと思うと……
「どう思ったらええんかな」
ぐずぐずと胸の内でくすぶり続ける想いはいまだに燃えている。
彼との記憶をオレは嬉しいと感じればいいのか、それともいまだに未練があるのかとうんざりとすればいいのか……
別にいつまでもおぼこいことをいうつもりはない、ないけれどそれでも和歌がここで情報を集めろと言った言葉に逆らえない自分がいる。
うまい具合に、捨てられたのだと知っている自分がいる。
けれど、和歌の言葉を信じている自分もいる。
とっくに諦めて当然だと思うのに、和歌の言葉を忘れてしまおうとした自分を、腹の奥のじくじくとしたナニかが責め立ててくる。
それがあるからいつまで経っても踏ん切りがつかなくて……
「 みなわ」
待合室の隅で座り込んでいたオレに声がかけられて、事務所から小金井が手招いた。
嫌な呼び出し方だ。
これで呼び出されていい話だったことがない。
「なんです?」
「今月末、お客様がお呼びだ」
天気の話もなしに突然切り出された言葉にひくりと肩が跳ねた。
「は?」
「いつもの、だよ」
黒くて長い前髪の隙間から覗く目は弧を描いている。
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