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はいずる翼 22

 家族に捨てられるようなオレが、じゃあ和歌に捨てられたら?  変に力が入ったからか、紙がぐしゃりと歪んで……中途半端に消えたハートが皺を刻んでオレの未来を象徴しているかのようだった。 「……和歌」  不安になってそろりとリビングの窓から外を覗く。  大学に行っている和歌はいつもこのくらいの時間に帰ってきてるから、こうやって見ていたら帰って来るのがわかるはずだ。  タイミングよく玄関に行って、帰ってきた和歌に飛びつけば少しはこの不安から逃げられるかもしれない と、そわそわと体を揺する。 「……────」  思わず窓ガラスを縋ると、冷たい感触がじわりとそこから染み込んできた。  硬質なガラスからもたらされる低温は小さなものだったはずなのに、あっという間に体を飲み込む。  門扉の前で立つ和歌の隣の、若菜。  溌剌とした表情のせいか、そっくりな顔なのにまったく赤の他人のように感じるのは性別が違うからなのか、それともよそよそしく暮らしてきたからか。  オレがしたことないくらいの口角の上がった笑顔に、和歌は……和歌は…………  背中しか見えないけれど、うんざりとしているわけではないのはわかる。  だって、若菜がはしゃいでくるくると表情を変えているから。  和歌もきっと、ダメな子よりもなんでも上手にこなして笑顔を見せてくれる若菜を好きになるはずだから。  家族からうとまれる自分より、若菜の方がいいに決まっている。  和歌が若菜の魅力を知ったなら…… 「  ただいま」    物のない家は扉の開くガチャンって音が良く響く。  まるで耳元で聞こえたんじゃないかって思えるくらい大きな開閉の音に飛び上がると、リビングに顔を出した和歌が機嫌悪そうに顔をしかめていた。 「あ  おかえり、なさい」 「ああ」  はぁー……と深い溜息を吐きながら台所へ行くと、唯一の調理器具である小さなヤカンを火にかけ始める。  帰ってきてすぐするルーティンだ。  日本のお茶じゃないエキゾチックな……馴染まない臭いのお茶はオレは嫌いだったけど、和歌は好きなのか毎日何度も飲んでいるのを見かけた。  カップを二つ用意してオレの分も淹れてくれるから仕方なく飲むけれど…… 「学校、どうだった?」 「あ?」 「面白いこと、あった? 学校だけじゃなくてもいいんだけど」  若菜とは、どうだった?  そんな言葉は直接言えず、ぼかした言葉で尋ねてみる。  オレの言葉に和歌は気の入らない曖昧な返事をしながらぼりぼりと頭を掻き、返事を探すように首を傾げながらお茶に口をつけた。 「ああ、雪がちらっとしたの知ってるか?」 「降ったんっ⁉」

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