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はいずる翼 23
この地域では滅多に雪が降ることはない。
冬は温暖で過ごしやすいと言えるけれど、ただただ寒いだけとも言える場所だ。
だから、冬のちょっとした贈り物である雪と聞いて思わず心が弾む。
「少しな、五分も降らなかったから見逃したんだろ」
「そうなんか……」
しょんぼりと肩を落とすオレのマグカップに、和歌はお茶を継ぎ足す。
「あ。もういらんて」
「もっと飲んどけ」
「うぅ……このお茶なんなん? 緑茶とかないん?」
仕方なく飲んではいるが、飲まないで済むなら済ましたい程度にはこのお茶が苦手で……でも、お茶を飲みながらのんびり和歌と会話できると思うと、この時間も嬉しいと思う。
「 冬は水分が足りなくなるから、しっかり摂らないとだろ」
確かにそうだ。
夏みたいにはっきり喉が渇かない分、水分不足になりやすいって聞いたことがある。
でも、それならこのお茶じゃなくてもいいはずで……
水道水でいいのにって言葉を遮るように、和歌が頭をぽんぽんと叩いてくる。
小さな子供をあやすような行動に文句を言いそうになったけれど、これはこれで嬉しくて照れそうになった瞬間、臭ってきた香りにむっと鼻に皺を寄せた。
「和歌……タバコ吸ってる?」
頭に乗せられた手からきつい臭いが漂ってくる。
今までそんな姿を見たことがなかったから、なんだか急に和歌が大人びて見えて思わず手を掴んでクンクンと臭いを嗅いだ。
「ちょ、な、なに 」
「和歌、不良やん」
「……もう成人してるからいいの。それにこれは、傍で吸ってた先輩のタバコ」
俺のじゃない って慌てて手を後ろに隠すけれど、オレと視線が合わないから吸ってたんじゃないかなって思う。
もちろん、成人してるんだから吸えるのはわかるけれど、和歌には体に悪いことを率先して取り入れて欲しくない。
「和歌が悪い子にならんか心配や」
「ぷ。なんだそれ」
「悪い子はベッド下のお化けが連れてってまうんやってさ」
誰かに言われたか、それともテレビで見たのかは忘れたけれど、そんな話があったはずだ。
「……連れていかれたら」
「?」
「連れていかれたらどうなるのかな?」
「あ、え、えーっと。仲間になる とか?」
お化けに連れ去られた後は、君もお化けの仲間入り! 的なイメージだったからそんな言葉が漏れちゃったけど……和歌はちょっと険しい顔をしている。
「な、なん……お化け怖いん?」
「うん? 馬鹿言え。…………生きてる人間が一番怖いんだよ」
呻くようにして付け加えられた言葉は独り言に近い。
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