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はいずる翼 24

 どこか苦そうに呟く和歌に、あの時はどうしたんだろうって感情しか湧かなかったけれど、今になって思えば和歌はオレよりも年上でいろいろな体験をしていたんだろう。  シャワーで隅々まで綺麗にした後は保湿のためのクリームを満遍なく塗り込んでいく。  某物語ではないけれど、食べられるための準備をしている気分になるのは仕方がないのかもしれない。  腕、足、背中、胸……そして赤い一輪の花が刻まれた薄っぺらたい腹も。 「……」  赤い花から長く伸びる茎に触れるとわずかな皮膚の盛り上がりが指先に当たって…… 「あんたは、どこに おるんやろな  」  そっと花を抱えるように自分自身を抱き締めて、一つ深呼吸をしてから洗面台に置いたブレスレットをはめる。  ブレスレットから香る甘い匂いに目が回りそうだ。 「  くっさ」    別に慣れたもので一人ででも発情しようと思えばできたけれど、こうやって他の発情Ωのフェロモンが傍にあると発情しやすい。  性周期同調フェロモンがどうのと小金井が言っていたが、要は効率がいいって話だ。  化粧に衣装に……今回のような客をもてなすための恰好をして、それらを隠すための薄地のコートを手に取る。  仕事用の携帯電話を手に取ろうとして、画面に表示された「わかりました」の言葉に息が詰まった。  ずいぶん前から約束していたというのに反故にしたオレに対して、ミクは文句を言うことも怒ることもせずにたった一言だけ返信をくれた。  その短い文ではミクの本心を知ることはできなくて…… 「今すぐ、会いに行ったりたいけど  」  じくじくとした痛みのような疼きが腹から駆け上がる。  赤い花のタトゥーで隠した傷口の奥から、何かに責め立てられているような気がするのはいつものことだったけれど、今までは忌々しいとは感じなかったのに。  どうしてだか、その奥の熱が酷く腹立たしい。  とはいえオレにそれをどうにかする手立てはないから、そのままそ知らぬふりをして首にいかついネックガードをはめた。  例え幾人のαに噛まれてもびくともしないように、丈夫さを最優先で選んだそれは隠す機能のない下着と透けるくらい薄い生地の羽織には不釣り合いなくらいだった。 「……こんな姿、見せられるわけないやん」  鏡に映るのはいつもよりはっきりとした顔立ちに見えるくたびれたΩの顔と、死神の手のように見える黒いネックガード、それからどこのエロ通販に出しても恥ずかしくない下着姿の体だ。  網タイツを履いた足をヒールのある靴に突っ込んでやれば、それでオレの準備は終わってしまう。  

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