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はいずる翼 26

 少し明るめな黒髪の隙間から伏せられた睫毛が覗く。  若菜がはしゃぎながら話していたのがわかる端整な顔立ちに、「男前やな」と呟きながら四つん這いでそろりと傍まで寄って行った。  腕を組んで唇を引き結んで眠っていると気難しそうな印象を受けるけれど、こんな厄介な子供を傍に置いても嫌な顔をしないのだから心の温かい人なんだと思う。  筋張った手でマグカップを持つところとか、同級生達みたいにはしゃいだり叫んだりしないところとか……大学生ってこんな大人っぽいんだなって思わせて、すごくかっこいいと思う。  少し前髪が長いから表情がよくわからない時もあるけれど、オレとやりとりとしている時に口角が少しだけ緩やかに上がっているのが、嬉しい。  あの風邪を引いた時、どさくさ紛れのようにキスをしたけれど、……和歌はどう思っているんだろうか?  慌てた和歌は普段よりもちょっと子供っぽくて、自分に近いと感じたから……焦らせたくてもう一度口づけてみた。 「…………」  俯いている和歌を起こさないように、体に触れないようにぎゅっと顔だけを吐き出してちょん とだけ触れる。  まるで猫の鼻チューのようなささやかさだったけれど、オレにはこれでもいっぱいいっぱいだった。 「  ────なぁに、人の寝込みを襲ってるんだか。このスケベ」 「す、すけべちゃ  うくないけど。ちゃうもんっ」  ぱちり と開いた黒い両目いっぱいに自分が映るのが見える。 「同意もなしにエッチなことするな」 「え  えっち、や、ない」 「そんな顔してエッチじゃないって言うんだ」  にやりと笑われて、オレは自分がどんな顔をしているか知りたくて咄嗟に和歌の頬を押さえて瞳を覗き込んだ。 「  ちょ」  鼻が触れるくらいの距離で見つめ合って……和歌の目元がさっと赤みを帯びる。  オレは自分の顔を確認するのが最優先だったから気づくのが遅れたけれど……これじゃあまるで…… 「あ、その  」  お互いの前髪の隙間から漏れた光がちらちらと瞳に落ちるからか、キラキラと煌めいて見える和歌の視線に釘付けになってしまって。  絡まった視線を解けないままに、そうするのが当然なんだって納得しながら和歌の唇にもう一度唇を重ねた。  今度は触れるだけじゃなくて、お互いの熱もしっかり感じ取れるくらい深いふれあい。  オレはただただじっとしているしかできなかったけれど、和歌はちゅっちゅってついばむように唇の表面を撫でたり、軽く甘噛みしたりして……  全身の神経が和歌がくれることを一つ残らず感じ取ろうとして興奮しているのがわかる。

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