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はいずる翼 30
番。
もう一度胸中で呟くと、ぶわりと体温が上がったような気がした。
急いでページをめくって、番に対して詳しく書かれているページを見て……
「……っ」
αとΩにのみ存在する契約だとか、一生を共にする相手と結ぶものだとか、さわさわと心をくすぐるような言葉に視線がするすると文字の上を滑っていく。
学校の保健体育の授業で軽く触れただけで詳しい勉強なんて自分で調べたことしかなかったから、並べられた文字のどれを見ても印象的で心が躍った。
発情期が来たΩの項をαが噛めば番になって、噛んだαだけがそのΩのフェロモンを嗅ぎ取れるようになる。
「噛んだ、番の、アルファにだけ」
スンスンと鼻を鳴らすように匂いを嗅いで、和歌の香りを思い出す。
冬の空気のようなしんと張り詰めたような香りはここにはなかったけれど、思い出すだけでそわりとした気分になる。
好ましい匂いのフェロモンはより相性のいい証拠。
そう書かれた文字に指を這わせて、決心をして図書館を後にした。
家に帰ると若菜や母に見つからないようにそそくさと自分の部屋へと入り、ひんやりとした空気から逃げるためにベッドへと潜り込んだ。
じっと胎児のように体を縮めていると、ゆっくりと手足の先に血が巡って温まってくる。
体温が戻る前に図書館で読んだ本の内容をゆっくりと思い出しながら、項にそろりと触れた。
首だからか冷たい指先とは違って驚くほど温かくて、しばらく指先に熱が移るのを待ってからそこをマッサージする。
ここをαに噛まれたら番が成立するのだと書いていた。
フェロモンが出やすいのもここで……だからマッサージしたり撫でたりして刺激してみるのだけれど、自分で皮膚を擦っているという感想以外は何も感じない。
少しは……なんというか、性的なものを感じるかと思っただけに肩透かしを喰らった気分だった。
「ここからフェロモンが出て、……え、えっちしてる最中に噛んで貰えば 」
和歌とずっと繋がっていられる。
若菜はαだから、和歌とは特別なつながりを持つことはできない。
だから、だから、だから……番になれば和歌の傍に居られるはず!
「 っ、あと、他に……」
性的な部分と言えばもう場所は限られてくる。
首を擦っていたおかげでぬくもった指先をそろりと忍びこむように腹にそって伝わせていく。
そうすると腹の上にか細い感触が這うように残って……少しぞくりとしたものを感じて慌てて手を握り込む。
自慰をするものだ と知識はあってもそれだけで、周りにそのことについて相談できる相手もいなかったし、触りたいとも思わなかった。
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