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はいずる翼 41
何を言っても震えと笑い声にかき消されてしまうから……
どうして家にいるのか。
どうして母たちと笑い合っているのか。
カチカチと歯を鳴らしながら和歌に尋ねたい気持ちもあったけれど、幸せそうな気配のするリビングに入るには自分は悪い子過ぎた。
制服を濡らして、
体を汚して、
抵抗して、
頭もよくなくて、
Ωで……
だから、そこに入って行く資格がないんだと納得した。
三人の笑い声から逃げるように風呂場へと入り、最低限のシャワーと洗濯だけをして逃げるように階段へと向かう。
幸い家の間取りは二階への階段が玄関傍にあってリビングを経由する必要がなかった。
話が盛り上がっている様子の三人は二階に上がるオレに気づかないだろう……いや、帰ってきていることも知らないかもしれない。
いつものことだけれど、今日は和歌の相槌が合間に聞こえてくるから、息が詰まりそうなくらい苦しく感じる。
シャワーじゃ温まり切らなかった体を引きずるように、一段一段上っていると、
「 若葉」
背後からかけられた声は間違えることのない和歌のものだ。
思わずはっと振り返ると、凍えてうまく動かない指が階段の手すりから外れてしまった。
最後までしがみついていた爪に痛みが走った瞬間、ぐらりと体が傾いでしまって……
「危ない! 何やって…………」
咄嗟にオレを受け止めてくれた体はあの痴漢と違って嫌悪感の一切湧かないものだった。
まるで当然と言わんばかりに馴染む感覚に、触れ合った部分から安堵が広がっていくのがわかる。
冷え切って、うまく動かない体だったけれど和歌が抱きしめてくれていたら、あっという間に温もっていくような感じがする。
すん すん と和歌の香りを嗅ぐと、恐ろしくて怖くて縮み上がっていた心が綻ぶ。
「あ、ぇか……あ がと」
唇はまだ震えてるからうまく言葉が紡げなかったけれど、和歌ならきっとオレが言いたいことを理解してくれると自信があった。
もう傍に寄ることができないと思っていただけに、階段から落ちるところを助ける形で抱き締められたことに舞い上がりそうになり……けれど「お手洗いわかりますか?」って尋ねる母の声にはっとなる。
「トイ レ? は、そこ です。明かりは 入 てすぐ、左 」
階段のすぐ向かい、玄関を入ってすぐ右手にある扉を指さすと、和歌は何の返事もしないままに振り返った。
その横顔が……ひやりとするほど鋭利だった。
「すみません! 俺、灯油を買いに行かなきゃいけなかったんです」
突然、和歌がそう声を上げる。
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