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はいずる翼 46
「 や 」
それが和歌の腕だとわかっていたはずなのに、瞬間的に払いのけてしまった。
抱き締められたらあれほど幸せになれた和歌の腕なのに、背後からの束縛はあの図書館での男の行動を思い出させて……
「汚れ てまう から だめ 」
言葉尻が消えて、和歌から感じる怒りに肌がぴりりと痛む。
謝らなきゃいけないってわかっているのに怖さが先に立って身を縮込めて目を瞑った。
「 若葉」
上ずって掠れた声で名前を呼ばれると胸がきゅうっと絞られる。
怖い、けれど苦しくなるほど愛おしい。
「 っ、和歌 」
「後ろから、何をされた?」
苦し気で、調子が悪いんじゃないかって思ってしまうような様子で尋ねる和歌は、怒っていたようだったけれど懸命にそれを抑え込もうとしていたし、怒りはオレに対してじゃないってわかる目をしていた。
「オレ 」
わずかにスンスンと鼻を鳴らすようなことをしてから、和歌は縮こまったままのオレの体を後ろから抱きしめた。
ぞ と悪寒が走って暴れそうになったのを、和歌の手が抑え込む。
「他のアルファの臭いがしてる」
「 っ、や から……あかん、オレの体 」
べったりと体中に塗りたくられたあの男の精液の感触を思い出して胃が縮こまる。
恐怖と嫌悪と……
和歌が言うようにこの体にはあのαが染み込んでいる。
「きたな い。オレの体汚いっ!」
「んなわけあるか!」
叫んだオレに怒鳴り返した途端、和歌は湯船へとオレを沈めた。
「若葉が汚いわけあるか! 若葉は世界で一番綺麗でっ可愛くてっどっこも汚れてなんかねぇよ!」
「そんっ そんなことない!」
和歌から少しでも逃げたくて咄嗟に顔を覆おうとしたけれど、大きな手がそれを許してはくれない。
「 めちゃくちゃ綺麗で、たまらなく可愛い 」
口の中で磨り潰すように呻きながら和歌はオレにもう一度キスをしてきた。
汚い という言葉も抵抗もすべて封じられて……
でも、あの男の精液の触れた唇を覆われて、しゅわしゅわと汚れが消えていくイメージが頭の中に浮かんだ。
深くキスされて、甘やかすように撫でられて、狭い浴槽に体のあちこちをぶつけるたびになんとなく視線が合って、笑い合って……
大きな手がまるで見ていたかのようにあの男が触れた部分を辿り、拭うように触れてくる。
「っ、 ぅン 」
気持ち悪いとしか思わなかったのに、和歌が触れてくると胸の飾りが気持ちよさであっという間にピンと立ち上がる。
まるで触ってくれと強請っているようで、恥ずかしさに胸元を押さえた。
「あとで、もっと可愛がるから」
「ぇっ」
思わず飛び上がったオレを、和歌は湯船から立ち上がらせる。
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