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はいずる翼 49

 可愛い、愛しい。  和歌のすべてを受け入れてやりたくて、伸びあがってキスをした。  すっかり体温を取り戻した唇は触れると和歌の唇がどんな感触かをしっかりと教えてくれる。 「あぇ か」  唇を押し付ける合間に名前を呼ぶと、なぜだか嬉しくて仕方が無くなって……胸が震えて涙が溢れた。  胸がいっぱいになって とか表現があるけれど、和歌に対する感情が体の中に収まり切れなくて、まるで溺れるようだった。 「和歌、オレ……オメガだよ」 「ぅん」 「和歌のオメガになるよ」  わずかに離れた唇の隙間で宣言すると、和歌ははっと怯えるような表情を作って……けれど、殉教者のように項垂れながら「うん」と答えて抱き締め返してきた。  オレが体の異変を感じたのはその直後で、腹の奥に溜まっていたものがやっと出口を見つけて吹き出すような、そんな感覚がした。  身の内を焼くようなソレが発情期の合図だったのは、和歌に散々熱を発散させてもらってからで……  腕に幾つもの歯形をつけながらも、和歌はオレの発情に煽られるままに抱いたりはしなかった。  体がしなり、形にならない言葉を叫んだところで手足は抑えられたままだったし、ちんぽの……特に先端の柔らかな部分を刺激し続けるては止まらない。  骨が軋むほど体を逸らしてもその責め苦は続き、呼吸が止まりそうなほどの苦痛の時間が流れて、パシャリと雫が飛び散る感覚がした。  途端に手足が自由になり、体中を軟体動物のような舌が這いまわる。  三人が我先に……と潮を舐めとる姿の阿保らしさに、何か悪態の一つでも吐いてやりたかったが、そんな余分な体力は欠片も残されていない。  精液とこれまで吹いた潮でぐずぐずのシーツに横たわりながら、かつて射精の一つもできなくて思い悩んでいた自分を思い出す。  ザーメンどころか潮まで吹ける なんて、当時のオレが知ったらどう思うだろうか? 「雫が ここにも」 「ああ、防水シートを敷くべきでしたね」 「次回はそうしましょう」  好き勝手にほざく客を見ながら、ぼんやりと……それでも不安に思っただろうと考える。  とはいえ、それも今から思うとわずかな間で、初めて発情をしたあの日、和歌とは最後までしなかったが丁寧な愛撫を受けてオレは初めて自分の意思で射精することができたんだから。  和歌は、首を噛むこともせず、乱暴に扱うこともせず、初めての発情に混乱して怯えるオレを辛抱強く導き続けてくれた。  視界に星が散るような、足を掴まれて奈落に落ちるような……  初めての感覚はジェットコースターのようだった。  

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