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はいずる翼 51

「お前は特別なオメガか?」  へこへこと無様な犬のように腰を振り続ける男にとって特別が何かわからなかった。  オレは、発情期をコントロールできるという点では特別だ。  けれどそれが移植に関係するとは思えない。 「特別なら飼ってやってもいいぞ?」  ケダモノのギラギラとした瞳は瞳孔が開いて、闇のような黒い中心部にオレをはっきりと映していた。  どんどんと荒くなっていく呼吸と腰使いに、正常ではない と経験が警鐘を鳴らす。 「 ────ぷ、はは! 貴様みたいに精液まみれが夢見ることだろう?」  男の唇から舌が飛び出してぶらぶらと揺れる。  そのあまりの行動に……それがあっかんべーだったんだって気づいたのは随分経ってからだった。  がつがつと押し付けられる腰の動きの粗さと、愛撫になっていない肌への攻撃。  まるで初めてラットに陥ったαみたいだ……と、男がネックガードの隙間に指をこじ入れて首を絞めてくるのを受け入れながら思った。  ひゅー と喉を空気が通る刺激に激しく噎せる。  咳で体が跳ねる毎に体中が軋んで自分自身を苦しめる、けれど咳を止めることもできなくて…… 「たまにはこんな遊びもいいですね」 「オメガを増やしても楽しいかもしれないですよ」 「お? お元気ですね」  笑い合う客はもう身なりを整えて、オレを弄んできた雰囲気の欠片もなかった。 「高倉さ ま。複数も、窒息も  契約、外 やで?」  起き上がる体力はない。  わずかに残った気力で不敵に微笑んでは見せたが……ここで聞こえないことにされても、追いかけるようなことはできないし次回を断ることもできないだろう。  つん と顎を逸らすようにして嘲笑を含めてやると、客は懐の財布から現金を何枚か掴んでバサバサと振りまいた。  鼻で笑うような声を漏らしてから、突然興味をなくしたとばかりに三人で談笑しながら部屋を去っていく。  笑い声は寝室を出たところで聞こえなくなり、やがてしんとした耳が痛くなるような静けさだけがやってくる。  わずかに発情の名残でうるさい心臓が大きな音を立てる以外、そこには何もない。   「はは  防音、ええなぁ」  痛む体をなんとかひっくり返し、自分の楽な姿勢をとった。  静まり返った空間にそっと目を閉じると、ふと懐かしいことを思い出して腹に手を当てた。  体を起こすと腰に回されていた腕がずれて少し寂しい感じがした。  静まり返った中に、木の枝から雪が落ちる音が響いて……なぜだかその時、お腹の中に新しい命が宿ったんじゃないかなって予感を覚えて……  そわりとした気持ちに、隣に眠る和歌を起こそうとしたけれど、思いの他あどけない寝顔に手を止めた。

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