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はいずる翼 52
幾度目だったかは忘れたけれど、和歌とセックスしたその日はオレの住んでいる地方にしては珍しい大雪で、カーテンを通して日の光とは違う淡い冷え冷えとした明るさのある日だった。
「今日も、寒そう」
ぼんやりと呟いたオレに気づいたのか、和歌が眠いのを隠しもしない声で「寒いならこい」って言ってオレを腕の中に引き込む。
本当は、夜に家を抜け出してこんなことをしちゃいけないんだろうけどオレも和歌も、お互いの体に触れる充足感の虜になっていた。
触れているだけで満たされる。
ほんのわずかでも離れるとうら寂しくて……
最初はしかめっ面していた和歌だったけれども、オレを見て微笑んでくれる回数が増えて、そうしているうちにこんな関係になっていた。
好きとか言われたわけではないし、付き合うと言われたわけでもなかったけれど、お互いが寄り添っているこの瞬間が世界の完結だって思える。
隙間なく二人の足りない部分が補え合えて、幸福さに泣きじゃくりそうだ。
「和歌」
「んー?」
オレの名残のように残ったフェロモンを探してか、和歌がぎゅっと抱きしめて首元に顔を埋めてくる。
「子供ができたらどうする?」
なんとなく、捨てられるフラグのような気がしなくもなかったけれど、なんとなく感じたこの予感をどうしても共有したくて……
「……」
和歌はちらりと散らばった避妊具を見てから、「名前決める」って答えて来た。
怒りださなかったり、否定してこなかったことに嬉しくなって和歌にすり寄って「名前は決めたし」って返事をする。
なんだかおままごとのようなやり取りで、きっと和歌は本気にはしてないだけなんだろうけど、話しを合わせてくれるって行為が嬉しくて仕方がなかった。
「えっ……俺の意見は通らない奴?」
「じゃあ、女の子だったら和歌の考えた名前にする」
「それじゃあ、女の子だったら 」
冗談のやりとりなのに、和歌の横顔は真剣だ。
「一文字取ってって奴、やりたい」
「和歌の? オレの?」
「男の名前を譲ったんだから、そこは俺の名前」
ふふん と意地悪く笑う和歌に、こちらも頬を膨らまして拗ねてみせる。
まるで台本でもあるかのようなお遊びのやりとりだったけれど、幸せだった。
オレは和歌の家の二階から音を立てないように出て自分の家の屋根に移り、鍵を開けておいた二階の部屋の窓から戻る。
危ないことをしているは百も承知だったけれど、こうでもしないと二人のゆっくりとした時間を確保するのが難しかった。
若菜は、急に姿を見せなくなった和歌を探して随分と荒れていたし、母も志望大学の生徒である和歌に話が聞きたいとずっと言っていて、タイミング悪く顔を合わせるとオレは弾き飛ばされて和歌の前は二人以外の存在は許されなくなってしまう。
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