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はいずる翼 53
だから、オレが和歌の家に行っているってことはバレちゃいけないことだった。
若菜は和歌を見る目がハートになってるし、母は高学歴のイケメンだから若菜に似合うだろうと画策している状態だった。
だからオレが和歌と関係を持っているなんてバレたら、今まで以上に生活しにくくなってしまうのは考えなくてもわかることだ。
「気をつけろよ」
窓の向こうから和歌が潜めた声で注意する。
振り返って小さく手を振ると、出がけに和歌が吹きつけて来たタバコの香りがして、体中に和歌の香りが染みついているんだって思ってこそばゆくなる。
とは言え……散々エッチなことをして、オレの体には和歌のフェロモンがべったりついているはずで……そのことを若菜はどう思うのか考えると、顔を合わせるのが恐ろしかった。
和歌は大丈夫だから って言ってはいたけど……
とりあえず足を滑らせないようにしたまま自分の部屋の窓へと入り、じっと見守ってくれていた和歌に手を振った。
風邪の時に散々世話になったんだから向こうで暮らしてもいいんじゃないかと、母に打診したけれど、若菜を理由にダメと言われてしまった。
好きになった男のところへ、弟とは言えΩが出入りするのは許さない って頬を叩きながら忠告されたから、オレ同様若菜も和歌のことをかなり好きなんだろう。
そりゃ、オレ達の目指している大学の先輩ってだけで凄い! っ思うし、若菜曰くすごく紳士的で話もしやすいらしいし。
恰好いいし……
すごく、いい匂いがするし……
和歌のフェロモンを思い出すと、胸の奥がざわついて体が発情しようとしかけているのがわかる。
きゅうって苦しくなった胸を押さえていると、窓の向こうの和歌がちょっと怒った顔をして、落ち着くようにジェスチャーをしてきた。
この距離で……バレた⁉
オレの匂いがそんなに強烈なんだろうかって思うとショックで、しょんぼりとしながらカーテンを閉めた。
はっきりと言ってしまえば、オレは進学するつもりはなかった。
母親が、若菜は進学するのにお前は進学しないとか体裁が悪い、だから受験しろ と言われてただけだったからだ。
母は他のお母さんたちにマウントをとりたがる人で、「うちの子は二人ともこんな難関大学を受験します」って言いたいがために受験先を選ぶこともできなかった。
そんな進学先に愛着も何もなく……学費を出してもくれないだろうから、卒業したら家を出て和歌と一緒に暮らそうと思っていた。
受かれば母が喜び、落ちれば若菜が喜ぶだけの受験はオレにとってはプレッシャーではなく、更にその向こうにある和歌との生活のための通過点にしか過ぎなくて……
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