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はいずる翼 59
「和歌は? 和歌は大丈夫なんか⁉」
流れていた血を思い出すとぞっとすると同時に、姉への怒りがふつりと湧いてくる。
今まで、気に入らないからと攻撃されるのはオレだけだった、でも今回は和歌を巻き込んでしまっていて、到底許せる話じゃない。
「これくらいは、放っておいても別に」
「そんなわけないやろ!」
咄嗟に返したせいか口調がきつくて和歌はちょっとびっくりした様子だ。
「オレは……和歌がケガするんが一等イヤや」
「……俺はお前が怪我するほうが嫌だ」
つん と言って返してくるが、結局はただののろけなんだって、医者の冷ややかな視線で気づく。
なんだか急に和歌と向かい合っているのが気恥ずかしくなってもじもじと指を弄りながら下を向いた。
「 で、子供ができているな」
最初は自分のことだなんて思わなくて、他の人のことだと思っていた。
けれど隣に立つ和歌の体が急に緊張したから、慌てて顔を上げると医者が看護師が渡した検査結果を見ているところだった。
その紙は光に透けてて、こちらからでも刻まれた名前が見える。
「え⁉」
なんとなく予感はあったけれど、だからって検査薬を買う勇気なんかなかったからはっきりとは知らなかった。
でも、あの日感じた予感が正しかったことに、きゅっと胸が詰まって鼻の奥が痛んだ。
「血液の方は外に回してるから結果は来てないが……それは鷲見家のオメガで間違いないようだな」
花で満開になったような気持ちが一瞬で踏み荒らされて……医者のものの言い方にひやりとした体が震える。
和歌は拳を握り締めて、医者を睨み上げたが医者はそんな視線なんて怖くないようだった。
「……怪我の治療だけをしろと言っただろ…………和歌に何もさせるなと 」
もしかして、身元を書いたのも検査をしたのもまずかったんだろうか?
「その胤の持ち主は仙内。お前か?」
医者はにたりと笑うような表情で尋ねてきたが、和歌は口を引き結んだままだ。
「ああ、誰かわからんということか」
はぁはぁなるほど と医者は一人納得してカルテに何か書きつけようとした。
「この子は和歌の子や!」
和歌が誤解するなんて思わなかったけれど、良く知らない医者に誤解されて下卑た想像をされるのは我慢ならない。
はっきりと言い返したオレに、和歌ははっと目を瞠ってから苦そうな顔をし……医者は気味の悪い笑顔を深くする。
「それはそれは。素晴らしい。台下殿も大喜びされるのでは?」
「……」
「あの鷲見の血統を取り込まれたのだから」
ぎし と、和歌の拳に力が入る音が聞こえた。
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