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はいずる翼 62

「別に、家に籠るのは嫌いやあらへん」  手を伸ばしてガラス越しに温かな日を感じる。  元々、家では家族旅行はなかったし、行楽に行くのは母と若菜だけでオレは家でお留守番だ。  観光したいという欲求なんてないに等しい。 「でも、運動不足やと出産によくないんよなー」  ぼやきながら、本屋や図書館で立ち読みしてきた本の内容を思い出しながら、簡単な足上げ運動をしてみる。  そうしていると肉が薄いせいでお尻が痛くなってくるから、何か尻の下に敷けるものはないかと探した……けど、あるのは薄地のオレの上着くらいだ。  引っ越してきたばかりとはいえ、この部屋には何もない。  前の部屋ではあった暖房器具も、もう温かくなってきているからか引っ越しと共に無くなっていた。  わずかな服と、カバンに収まる程度の日用品。  ともすれば、立ち上がったらそのままこの部屋から引っ越しできてしまうくらい身軽な…… 「……」  和歌がどうしてこんな生活をしているのか?  二人の生活費をどこから稼いできているのか?    和歌が部屋を引っ越す度に、誰かに追われているんじゃないんだろうかって……思うこととか。  不安なことはいっぱいあったけれど……オレはお腹の中で育っている命のことばかりを考えていて、そんな部分は見ないようにしていた。    日が沈んで肌寒くなってきた頃、和歌が焦ったように部屋に飛び込んできた。  いつもならもう少し明るい時間に帰ってきていたから、ちょっとした異常事態だった。 「カバンを持って。引っ越すぞ」 「えっ わ  」  引っ張られて、近頃大きくなったお腹のせいでバランスのとりにくいオレは転びそうになって手を突いた。 「いそげ」  なのに、和歌から返ってきたのは急かす言葉だけだ。  せめて一言、気にかける言葉が欲しいと思うのはオレの我儘なんだろうか? 引っ越しになったんだから、今日見に行くって言っていた桜はもう無理だから諦めなきゃだし、ショックを受けているんだから何か言ってくれてもいいだろ⁉ って言葉が沸き上がる。  今までは苦労して抑え込めていたけど、でもその日はどうしてもダメだった。 「桜っ 見に、いく って」  自分でコントロールできない感情が溢れて、桜を見に行けなかったらそれでいいけどくらいの花見を中止にされて怒りが湧いた。 「和歌の嘘つきっ!」 「若葉⁉」  いつもオレが「うん」って言ってついてきていたから、オレの言葉は和歌にとって予想外だったんだと思う。  伸ばされた手を払って身を引くオレの姿に、和歌は焦りを滲ませた表情で駆け寄ってくる。  

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