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はいずる翼 63

「あと 後で! 絶対に花見には連れて行くから! とにかく今は一緒に来てくれ!」  普段の冷静な様子とは違うそれが、どれだけ和歌が追い詰められているかを物語っていたのに、オレは感情のままにその手を払ってしまった。 「若葉っ!」 「こ この部屋、日差しが温かくてええやん? オレ……子供、こんなところで育てたい……少しでええから落ち着いて、暮らしたい!」   叱りつけられ、タガの外れた感情に押し出されてオレの目からは涙が零れて……  それを見た和歌が複雑な顔をして何かを言いそうになっては歯を食いしばり……やがて諦めて、体の左右に垂らした拳に力を込めながら、「そうか」と呻いた。  その時、オレは自分のことばかりで、落ち着いた場所で子供を産みたい育てたい、大きくなる体の変化で辛いからゆっくりしたい、子供が生まれてからの生活も考えたいって思いが強くて、和歌が何を背負っていて、何のために各地を転々としているのかなんて何も考えられなかった。  逃亡のような生活の中で、オレがここまではっきり和歌に引っ越しはイヤだ と言ったのは初めてだ。 「……そう、だよな。子供……のことも、考えないと   」  和歌は顔色を悪くしながら言い、考えている様子だったが気もそぞろで……何かの気配を感じたようにさっと辺りを見回す。  狭いワンルームの部屋は隠れる場所なんてないのだから、どうしてそんなことをしているんだろう? って、不思議に思った瞬間。 「 ────っ」  それを何と表現していいのかわからなかった。  押し入られたにしては静かだったし、入ってきたというには強引だ。  咄嗟に和歌がオレを抱き込むようにして庇って、その数人の黒い服を着た男達に対して鋭い視線を向けた。  けれど、その男達は何も感じないかのように突っ立っているだけで…… 「和歌……あぇ か、この人ら、なんなん……?」  引っ越したばかりの家に土足で入り込んで取り囲んで……明らかにおかしな事態だ。  犯罪に巻き込まれたんだって思うと、膝が笑って今にも崩れ落ちそうだった。 「   ……下がれ。番が怯える」  オレを抱き締める腕に力を込めながら和歌が言うと、三人を残して残りの男達は音もたてずに部屋を出て行く。  明らかに強盗などではないし、和歌の言葉に従っているようだ。 「下がれと言った」 「台下がご報告をお待ちです」 「こちらへ」  伸ばされた手に驚いて飛び上がると、和歌はぎゅっと眉間に深く皺を刻ませた。 「自分達の足で歩いていく」  そう言うと目の前の男は目を糸のように細めて、玄関への道を開ける。  

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