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はいずる翼 64

 外に出るとどこにでもある白い乗用車が一台止まっているだけで、他の男達の姿は見えない。  どこか物陰にでも潜んでいるのかと辺りを見回してみたが、人影すらない。 「和歌……」 「……危険なことはないから   」  そう言うも、肩に置かれた手には力が入っていたし歯を食いしばっているからか顎のラインが鋭い。  緊張しているんだってことがはっきりとわかる様子に、自然とオレの体にも力が入って……体の底に、鈍い感触がしたけれどそれを言い出すことができなかった。  車は……乗る機会がなかったのでよくはわからなかったけれど、普通の車だとは思う。  けれど重苦しく押しつぶされるような雰囲気に、オレはお腹を撫でながらそろりと和歌の顔を盗み見た。 「和歌  」  名を呼べば少しこちらを見てくれるけれど、険しい表情はオレに意識が向いていないことを知らせてくれる。  和歌が逃げようとしていたのは、この人達からなのは間違いない。  跳ねる心臓の音を抑え込みながら、運転手と助手席に座る男、それから後部座席に座った男を交互に見た。  こちらもやはり車同様普通の人で、どこか闇の仕事に手を染めているような雰囲気は欠片もない。  しいて言うなら三人ともが表情が穏やかで、それが和歌の表情と対極過ぎて気にかかった。 「  どこに、行くん?」  緊張で干上がっている口で出した声はかすれている。  助手席の男が振り返り、和歌と和歌の隣の男を見てからぱちりと目を瞬かせた。  それが、何らかの合図だったのか和歌が「教会に行く」と呻くような声で答えてくれる。  和歌に肩を抱かれながら車に揺られて、市街地からやがてごっそりと建物のない場所を通って……    オレの緊張が切れる頃になってやっと、車は山の中を走り出す。  山の中といっても遭難しそうな場所ではなくて、綺麗に舗装された桜並木の車道だから振動すらないような状態だった。 「桜……綺麗」  窓ガラスに頭をつけながらぼんやりと呟くと、和歌が手に少し力を込めたのがわかった。 「悪い。……花見に連れて行くって言ってたのに  」  ばつが悪そうに微笑んだ和歌は、緊張して別人のような雰囲気を纏っていた姿じゃなく、いつも通りのちょっとクールなところがある姿に見える。  だから、ほっと肩の力が抜けた。 「うぅん、今、こうやって見れとるし」 「そうか……」  少し安堵したような雰囲気に今がチャンスだと思ったから、和歌に向き直って頭を下げた。 「あの、我儘言ってごめんな?」 「うん?」 「桜、見たいとか。引越ししたくない とか   」  和歌の手を振り払っちゃったこと、とか。

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