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はいずる翼 66
「……」
この不安さを拭ってくれるかと、返事が欲しくて掴んでいた裾を軽く引っ張ってみたけれど……和歌はふい と視線を逸らして答えてはくれなかった。
オレの言葉が聞こえていなかったんじゃとも思ったけれど、以降こちらを見てくれなかったから……
答えたくないだけなんだろう。
「 っ」
鈍い感覚が痛みに変わり、内臓をつねられたような痛みが這う。
思わずお腹を庇うように置いていた手に力を込めて息を詰めたけれど、じわりとくる痛みは治まらない。
お腹を下したのとはまた違う痛み。
詰めた息をそろそろと吐き出して、和歌に知らせようとするのだけれど先ほどのことを思うと声が喉に留まってしまった。
いきなりわけのわからない人に連れ出されるなんて異常事態なんだから、胃が痛んでもしょうがないのかもしれない と自分に言い聞かせて、そろりそろりと息を吐きながらやり過ごす。
そうすると少しマシになるから、和歌に何も言わなくて済んでほっとした。
桜道から少し走り、広い駐車場を通ってから建物の地下へと行く。
そこは外の駐車場よりは狭かったが、それでも何台もの車を停めることのできる空間だった。
ドアを開けられて、促しの言葉はなかったけれど降りろということなのははっきりしていた。
和歌を振り返って窺うも強張った顔のままだ。
「……」
そろり と足を下ろすも、腹の底で感じる痛みに動けなくなってしまう。
けれど痛くて動けないんだ……とは言い出せなくて、そろりそろりと足を擦るようにして踏み出す。
やはり促しの言葉もないまま、三人の男達はオレと和歌を先導するように歩き出した。
和歌もそれに続くから、オレ一人だけここに突っ立っているわけにもいかない。
「 っ」
鈍い痛みを飲み込んで、大丈夫だから大丈夫だから と自分とお腹の子に言い聞かせながら後をついていった。
打ちっぱなしのコンクリートを通りすぎ、隅にあるエレベーターに五人で乗る。
見知らぬ……ましてや押し入ってきた男達と入るには狭すぎる密室に、自然と和歌に縋るように近寄った。
呼吸をするのも憚られるような空気感に押されて、オレの呼吸も浅くなる、そうすると腹の鈍い痛みが酷くなるような気がしてくるから、意識してゆっくりと呼吸を繰り返す。
心の中で、大丈夫だから! 守ってくれるから! 守るから! ってお腹の命に語り掛けるしかできなかった。
────ぽこん
その感触が最初は何かわからなかった。
まるで腹の内側からピンポン玉を投げつけられたような……金魚が泳いでいるような?
布越しの手にまで伝わってくる不意の衝撃に、良くないことが起こった! と青くなって……
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