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はいずる翼 69
「ええっ そ、その間にあの太客から連絡来たら⁉」
「……」
大神……悪い犬……噛まれる……かつて和歌が言われた幾つもの単語が浮かんだけれど、肩を竦めた。
「あの人は事前にちゃんと連絡くれるやん? そしたら出るから」
もっとも、その訪れももうずいぶんとないのだから、自分以外に気に入りのΩを見つけたか何かあったんだろう。
あのやり手の大神が塀の向こうにいる なんてことはないだろうけれど、一度調べておいてもいいかもしれない。
何せオレは大神を調べなければならないんだから……
細々と……細々と……蜘蛛の糸を手繰る思いで大神を知っている人を顧客にして、繋ぎをつけてもらって……ほんのわずかな情報だけれど、子供を探してくれている和歌に提供するために……
保護という名目で一目すら会えないままに連れ去られた、オレの赤ちゃん。
「 っ」
その子のことを思うと今でも腹の底の方や帝王切開した傷がずきりと痛む。
「具合悪かったりする? 病院?」
「大丈夫や」
冷たく返すと、小金井はちょっと傷ついたような顔を作って見せ、その後は一言も話さなかった。
途中で返してもらった携帯電話の電源を入れてみるも……ミクからのメッセージはどこにもない。
随分前から予約を入れていたのに、急にオレ都合のキャンセルになって……呆れ果てたんだろうか?
箱デリのキャストと客と……人には見せないような場所まで見せ合っていても、切る切られる時は一瞬だ。
「……」
もう、連絡はないかもしれない。
華奢で、頼りなさそうで、でも勢いはあって、真剣で……まるで昔の自分を見ているような彼には、もっといい人の元で大きく羽ばたいて欲しと思うからそれでいいと納得する心と、同時にもう飛ぶ力もないオレが置いて行かれるのも嫌だ と感じて……
連絡がこないかと携帯電話に視線を遣るも、そこに浮かぶのはミク以外の客のくだらないメッセージだったり、広告の通知ばかりだ。
ミクからの連絡が埋もれてやしないかと何度も目を皿のようにして見てはみたが……メッセージの中にミクの名前を見つけることはできなかった。
「あ、マンション行く前にコンビに寄って」
「はいはい っと」
少し利便性の悪いマンションに着く前にコンビニに寄ってもらって、胃にもたれないような軽食と飲み物、それに他のものも買いに寄る。
「これやるから、今度から高倉さまは断って」
熱々の缶コーヒーを小金井の頬にぎゅっと押し付ける。
「ゎ゛っ⁉ あっ、ちっ! そ、そんなことできるわけないだろう!」
「次回はもっと酷いプレイを要求してくるで。オレだけじゃなく、他のオメガにもや。一歩間違えば人死にが出る」
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