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はいずる翼 70

 はっきりと言ってから、ルームミラーに映るように指の痕の残る首を反らして映した。  白い肌に、はっきりと指の形だとわかる赤い痕がついている。今は赤いが、その内紫へと変色していくのを想像するのは簡単だ。 「あと一人、多分性別偽ってるんやないかと思う」 「……」 「オレの匂いにあてられてラットっぽくなってた」  小金井はオレの言葉にちょっと半信半疑っぽかった。  そりゃそうだ、客には一応事前にバース性は知らせてもらっていて、虚偽だった場合はキャストを危険に晒したとしてきついお仕置きをされることになっている。  それでも、偽る奴は偽るんだろうけれど…… 「はぁ、じゃあ頼んだからな。ここでいいよ、歩いていくから」  いい加減小金井とのやり取りが面倒になって、缶コーヒーを手の中に押し付けて歩き出す。 「ちょっ みなわ! 規則だから、マンションまで送るって」 「……別にええやろ、こんなザーメン臭いオメガなんか、汚ぅて誰も手ぇなんか出さへんわ。むしろコートが風で捲れたらオレがお縄になるわ」  この下は紐も同然の下着姿だ。  長いコートだし、生地もしっかりしているから安易に捲れることはないだろうけど、それでも下着姿には違いない。 「だから、送るって。今夜は風が強いって予報で言ってたし」  低速で動く車に追いすがられるほど鬱陶しいものはない。  仕方なくもう一度後部座席に乗り込むと、そのタイミングで手の中の携帯電話が小さく震えた。  ぱっと明るくなった画面には、ミク の文字とメッセージの受信を知らせてる文字が行儀よく並んでいる。 「 ────っ」  思わず前の運転席を蹴りつけると、小金井が驚いたような悲鳴を上げた。  マンションに帰って下着に挟んでおいたお金はチェストの中にしまう。  実はチェストの中には結構な金額が溜まっていて…… 「これだけあれば、子供の進学とか、間に合うんやろか?」  学生の生活費をぼんやりと考えることはできたが、塾や受験にかかる費用や大学の入学金、授業料などは未知の世界で……どれほど金がかかるのかはっきりしなくて、ここを覗き込む度に不安に駆られていた。 「サイトによって微妙に金額が違うんやもんな。困ってまうわ」  ぶつぶつと文句を言いながら、がらんとした部屋の壁にかけてある私服を手に取ってバスルームへと向かう。   『  ────お仕事の後、少しでも会えませんか?』  堅苦しくて短くて、お世辞の一つも労わりすらない文章だったけれど、そこにミクの人柄が加われば、彼がこの短い文章を打つために幾度消しては書きを繰り返したかがわかってしまって、悪い気はしない。    

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