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はいずる翼 74
「 っ」
和歌は酷くショックを受けたような顔をしてから、大丈夫って答えてくれた。
「よ か 」
「よくない! 何もよくないだろっ!」
肌がビリビリとするほどの怒声に、病室に入ってきた看護師が怯えたのが見える。
「お前っ自分の体のこと考えたことあるのか⁉」
体 と胸中で繰り返すが、特に体に関して思い入れ……というか思うことはない。
母の気まぐれで食事が摂れたり摂れなかったりしたからちょっと痩せている方だと思うけど、幸い大きな怪我も病気もしたことがなかったから気にかけたことはなかった。
Ωの割に頑丈だ と母にも言われていたから、健康な方だと思う。
和歌がオレが風邪をひいたのを見ていたから病弱に思えるのかもしれない。
「ゃ……オレ、元気やし 」
「 っ」
和歌は口に出したい言葉が渋滞したのか、わなわなと食いしばった唇を震わせて拳を握り締める。
「……戒訴さま、目覚められたばかりですし、興奮させては 」
「…………」
長い睫毛が印象的な看護師は和歌の拳を押さえてやんわりとオレとの間に入ると、点滴の調整をしたりオレの脈をみたりした。
「もうすぐ先生が来られますからね」
美しい看護師が言った「先生」の言葉に嫌な予感がしたけれど、頭を起こすこともできないオレにはどうすることもできなかった。
高橋 と名乗った医者をオレは知っていた。
和歌の家で出会ったあの横柄な医者だ。
体を動かせないオレを冷ややかに見下ろして、面倒そうにはぁと大きな溜息を吐く。
「不摂生が祟ったんだろう」
まるで路傍の石を蹴るようにつまらなさそうに言う。
「どうせ好き嫌いの我儘ばかり言っていたんだろう」
「え……」
「菓子で栄養が摂れるわけがない」
冷たい目はそんなことはないと言ったところで受け入れてくれる様子はない。
確かにオレの体は他の人たちと比べると細い方だったけれど、食べ物を選り好みしてこうなったわけじゃなかった。
オレの食事事情は母の機嫌によって左右されて……
「栄養不足で胎宮に厚みがない」
栄養が足りないから?
厚みがないから?
だから?
ぞわぞわと凍えるような感覚が腹の底から這いあがってくる。
悪寒と吐き気で体が震えてしまいそうなのを堪えながら、医者の言葉の続きを待った。
「碌々、学も稼ぎもないのだから家畜にもならんものを殖やすよりは諦めたらどうだ?」
「 ────っ」
突然、体を責め苛んでいた悪寒が熱を持った気がした。
普段のオレなら、お医者様なんて目上の人間に対して飛び掛かるなんて絶対にできないのに、沸き上がってくる怒りに押し出されるようにして高橋に向かって手を伸ばした。
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