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はいずる翼 77

 真っ赤な項にあるのは食いちぎられたような番の証で……番のαに先立たれたΩは埋めようのない孤独感に衰弱していくと言われている。  こんな激しい痕をつけるほどの恋をしたミクが、伴侶を恋しがらないはずがない。  以前、死別した と硬い声で言ってはいたけれど、その悲しみはきっとオレが考えるよりも深くて複雑で純粋で……  苦しくてもオレに触れられたくないのはそういうことなんだろう。 「……ええなぁ 」  たった一人以外には触れられたくない なんて、そんな浮かれるような感情を思い出そうとして、擦り切れてしまった思いを見つけられずに終わった。    美しい目元が印象的な看護師は確かにオレに献身的ではあったけれど、同時に和歌にも献身的だった。  患者の身内に接するには……あまりにも多いボディタッチに、我慢できなくなって「離れてください」と言葉が漏れてしまった。  和歌の肘に触れていた看護師はオレの言葉の意味が分からなかったように首を傾げて、……でも、手を離すことはない。 「あ、あのっ……自分のっ……番に、触れられるんはあんまりいい気分やないので  」  自分で番なんて言葉を言うなんて、まだ噛まれてもいないのに図々しかっただろうかとはっと口を押える。  でも和歌だって自分のことを番だって言ってくれたんだから、こうして看護師に告げてもいいだろう。 「ええ、大丈夫ですよ」  にこりと笑う顔はゆったりとしていて動揺の一つもない。  オレが考えすぎて悋気を見せただけのような気分になって、どきりと手が震える。 「私も、かい……和歌さまの番ですから、心配なさらなくともいいんですよ」  穏やかな声は、手数をかけた時に「ありがとうございます」と言ったオレに返される言葉と同じ調子だった。  あまりにもさらりと言われた言葉はオレの中に沁み込むには時間がかかりすぎて、「え?」と返した時には看護師は退室しようと扉に向かっていて…… 「ま  待って!」  飛び上がったオレを押さえたのは和歌で、苦い顔のまま「行っていい」と看護師に言った。  看護師はいつものとおりの綺麗な笑顔のまま、一礼して扉の向こうへと去ってしまう。 「ちょ なんで⁉ なんで行かせるんっ⁉ 和歌……あ、あの人  何言うてん?」 「何も言ってない」 「言ってないわけないやんっ! 言った! 和歌の番やって! ……なに  どういうこと   」  暴れたせいか点滴の管に赤い色が滲み始めて…… 「違う、そういう意味じゃない」 「つ、番って……他にどんな意味があるん……そんなんないやろ……」  番は、αとΩの間にある特別な絆なんだと、そう本に書かれていた。

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