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はいずる翼 78

 それはつまり、和歌とオレの間にある…… 「あ 和歌は、あの人と……こ、  っ」  ぎゅっと腹に痛みが走る。 「恋人なん?」 「   」  すぐに否定も肯定もしないまま、和歌は険しい顔のままオレの体を押さえ続けて…… 「彼女は、俺の 婚姻候補だ。だった、が正確だ」 「こん ぃ  それって、婚約者ってことやん!」  和歌の手を振り払おうと手に力を込めたが、オレの腕はピクリとも動かすことはできなかった。 「落ち着け! 暴れてお腹に影響が出たらどうする!」 「 ────っ! え、影響ださすようなことしてるんは和歌やんっ!」 「あいつは候補だっただけで、それだけだ!」 「そんなん……はっきり恋人言うたらええやん……」  和歌は一瞬嫌悪の表情を浮かべ、吐き捨てるように「違う」とだけ返す。 「俺には、決められた婚姻候補が何人かいた、その一人があの女だってだけの話だ」 「 ゎ、わからへん……っ、そ、それは、世間では婚約者やし、元カノってことなんやろ?」 「そういう付き合いをすることはない。あれは婚姻のために選ばれただけだ」  硬くなっていく和歌の言葉は事務的で、そこに和歌本人の感情は垣間見えない。 「運命以外のオメガの中から選ばれて、後継を残すためだけの  」 「……あ えか、ごめん……オレ、よぉ……わからん」  和歌が教えてくれたことをうまく理解できないオレは、やっぱりダメな存在なんじゃないかって思うとどんどんと血の気が引いていく気がした。 「俺の  」  言葉を探す和歌は困惑した表情で…… 「  周りが用意した、形ばかりの、……だから……戸籍上のための相手だ」    それは結婚相手で、本妻で、和歌の奥さんってことじゃないんだろうか?  和歌の言葉をもっと他の言葉に置き換えてみようとしたけれど、うまく変換できないまま……自分は愛人か、ただ孕ませてしまっただけの存在なんだって考えの方が先に完成してしまった。 「オレ、間男やったんか」  ぽつんと言葉を漏らしてしまうと同時に体の力も抜けた。  急に抵抗する力がなくなったからか和歌ははっと手を離すと、慌ててオレの顔を覗き込んでくる。 「違う! 俺には  っ生まれた時からそう決められた候補がいるってだけで、その誰とも番になってない!」 「  っ」 「俺はっ 俺の番は若葉だけだから! ……だから、あの女は候補だったってだけの話で、何も関係のない。会ったのもここが初めてで  」  チリ と痛む腹部を庇うようにして俯くと、視界から和歌の顔が消えた。  いつも傍に居たくて、いつも顔を見たくて、いつも声を聞いていたいって思っていたのに、今は見えなくなってほっとしている自分がいる。

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