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はいずる翼 79
「今はっ……若葉を動かせないからここにいるしかないけど、退院したらもう関係ない。会うことのない人間だ」
はっきりと言い切られて、少し心が軽くなったように思う。
「ほ んま?」
興奮したせいか痛みを訴え出す腹を手で撫でると、少しマシになった気がする。
ジリジリと下腹部から小さな稲妻のように走る痛みに……心臓が跳ね上がったように鳴り始めて、和歌に返そうと思った笑顔が引き攣った。
「俺の番は、若葉だけだから」
なだめるように耳元で言われて、ほっと肩の力が抜ける。
自分だけ。
和歌の番は自分以外にいない。
「 運命が現れても、関係ないから安心して」
冷静さを失ったらダメだ と深呼吸をしようとして失敗した。
詰まった空気が喉でわだかまり、塊になるはずもないのに氷のように固まってしまう。
「俺は運命とは番わない、だから 」
「 ────なん っ」
やっと出た声に押されるように、鋭い痛みが腹の表面を走った。
「オ……オレ、は、和歌の……運命やないん?」
寒気を感じるほどの痛みにどっと汗が噴き出して息が止まりそうになったけれど、和歌の腕を掴んで揺する。
「 若葉 とは、あ ……愛し合ってる、けど。運命なんかじゃない」
苦笑のような曖昧な表情で言う和歌は、オレの様子の変化には気づいてはいないようだった。
ぐるぐると渦巻くように痛み始めた腹は、まるで緊張しているかのようにぎゅうっと痛みを訴え出す。
「運命なんてなくても、一目で恋に落ちたし、俺はもう若葉以外を見ることはないって断言するよ」
「そ、 それっはっ……運命やないん? 何が運命って証拠なん⁉」
「あー……運命同士は……一目で、この人以外いないって、感じて……フェロモンで途端にヒートに入ったりして 」
駆け上がっていく痛みに、和歌に縋りついて歯を食いしばる。
そうでもしないと悲鳴を上げてしまいそうで……けれど、この話を今しなければ後悔するとわかっていたから。
「 それ は、うちら、は、運命ちゃうの? オレは、和歌に一目惚れ やったよ?」
「だから 若葉? おい、痛むのか?」
「和歌以外っ オレにはおらんっ! …………ヒートやって、和歌やからよ?」
きつく握りしめた手がガタガタと震え出す。
和歌にもっと流暢な言葉で伝えたいと思うのに、たびたび襲ってくる痛みで途切れ途切れになってしまう。
「オレ、 じ、ぶんで、ヒートを……コントロール、できる から」
しがみつく手に力が入らなくなって……ぐらりと体が傾ぐ。
「若葉⁉ 若葉っ⁉」
「やからオレ、和歌の運命 なんよ」
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