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はいずる翼 97
「そ、そんな、に、すごい人、なんですか?」
オレの震えた声を、キャストはただの人見知りだと思ったようだった。
「まだ若いのに無くなった組員の面倒見つつ事業もしてる人だよー。大きくて怖がる子もいるけど、オメガには優しくしてくれるしー自分は好きかなぁ」
ふふん と自慢げに笑ってから、何か思い出したのか突然に「あ!」と声を出す。
「一番なのは、オメガを人として扱ってくれるとこ!」
キャスト達がザワ と騒ぐ。
この店で働き出してすぐだったけれど、客達のキャストへの態度がどういったものか知るには十分な期間だった。
小さな世界で暮らしていた頃は、自分がダメな子だから親や姉からあんな扱いを受けるのだと思っていたけれど……キャストの身の上や客の態度を見ていると、Ωという性別だけでぞんざいに扱われている。
「そん そんな、人なん ですか?」
「うん! そりゃ、裏に回ったらナニしてるかわかんないけどねぇー、それこそそんなにオメガ集めてどうするんだって思うけど」
「…………」
「僕には少なくとも暴力も暴言もないもん、だからいい人!」
鼻歌でも歌いそうなキャストの言葉に返事も返せず、ただぺこりと頭を下げて備品置き場へと駆け足で向かった。
「お お、大神が、いい奴なわけ、あらへんやろ っ」
肉の盛り上がった腹の傷に触れると、皮膚が薄いからかぴりぴりとした痛みが這う。
いい人ならば、和歌に警戒されるはずがないし。
いい人ならば、子供を連れ去ったりはしない。
「……集められた中に…………オレの赤ちゃんは、おるんやろか?」
ふと口から漏れた言葉に驚いて、慌てて自分自身の手で塞いだ。
けれどそうすると余計にぐるぐるとその可能性が自分の中で巡って絡まって堰き止められて……
店に来ることのない大神に会うためには接待の席に呼ばれなくてはならない。
オレは大神に近づいて……運よく集められたΩの中に入れれば と、小金井にキャストとして働くと申し出た。
結果的に、大神はオレを気に入ってくれた……んだと思う。
指紋と鍵が必要で命まで守れると言われる首輪を用意していたからか、それとも気兼ねなく抱けるいつでも発情できる体質が良かったのか、何が原因かはわからなかったがとにかく接触することはできた。
誤算はどんな時もどんなにフェロモンを浴びせても理性を失わなかったことだ。
溺れさせてしまえば……なんて安易な考えは早々に潰れてしまって、けれどなんとか食らいついてわずかの情報も漏らさないように……
ただただ、その一心でやってきた。
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