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はいずる翼 101
なんだかしょうもない神サマに弄ばれているような気がして、心の中で幾度も悪態を吐く。
もう辞める そう言ったはずなのに、習い続けて性となったのか「行く」と二つ返事をしてしまったのは……
「みなわ様でいらっしゃいますね」
よほどきょろきょろとして不審者だったのか、そう声をかけられて案内される。
連れていかれた先は半個室の、少し込み入った話をするにはうってつけの席で、そこにはすでに大神と……見たことのない男が一人座っていた。
いつも後ろに控えていた秘書の直江はいないのかと窺うけれど、二人以外に人影はない。
大神はゆったりと腰かけていたが、相変わらず……ぐっと胸を押されるかのような気配に自然と背筋が伸びる。
「大神さーん、ご無沙汰やん? 見限られたんか思ったわ。お隣の方は初めまして、みなわと言いますー」
精いっぱい出した明るい声も……大神の「座れ」の声に押さえつけられて、ぎくしゃくしながら着席するしかなかった。
二人の向こうの窓には大空が広がっているのに、息苦しささえ感じて……
今までも、セックス抜きで食事にだけ連れまわされることはあったけれど、直江以外の人間が同席したことはなかったし、こんな雰囲気も初めてのことだ。
「今日はなんか美味しいもん食べさせてくれるんかなーって思てんけど、お客さんのご紹介やったんかな? うち影楼のみなわです」
そう言って隣に座る年配の男に名刺を差し出すと、晴天かと言いたくなるほどのニコっとした笑顔を返されて、「瀬能です。よろしく」と返される。
瀬能の晴れ晴れとした笑顔は店を利用しようとする客にある仄暗いいやらしさが一切ない。
つまりは、オレにそういった意味で興味がないようだった。
「何か頼んでもええ? アフタヌーンティーとか、ちょっと憧れなんよね。一人やとアレやけど大神さんとやったら 」
「仕事がある」
言葉を遮られて、はく と唇だけが動いて……ゆっくりと閉じる。
辞める と決めた。
もう自分の中で、進まなければと決めたところだ。
決めたのならもう男娼の仕事をする必要なんかないし、唾を吐いてやりたい大神に会うこともない。
席を立って、それでおしまいでいい話なのに……もしかしたら、の部分がオレにストップをかける。
もしかしたら、この仕事で、子供に会えるかもしれない。
情報を集め始めて十数年、大神と接触できるようになって数年……そこまでして、未だに芳しい話が聞けていないのに、今更だと思う。
「なん ……どんな仕事なん?」
「僕のオメガ研究に付き合って欲しいんだよ」
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