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はいずる翼 102

 Ω研究。  ざわ と腹の底から悪寒が駆け上がる。  ずっとずっと、探し続けて終ぞ聞けなかった言葉だ。 「あ  な、ん。アレ? 台に括りつけられて、解剖されてまう?」 「あはは! どこの悪の組織だい?」  瀬能は自分の発想に笑いを返してくれたけれど、大神はむっつりと押し黙ったままだった。  落ち着かなくなったオレに、瀬能は懇切丁寧に研究の内容とオレの役割を説明してくれて……  聞いた範囲の内容的にはそんなことで仕事になる? と言ってしまいそうになる。 「勿論、それなりのものは出させてもらうよ? ね?」  瀬能は人差し指と親指で輪を作りながら大神ににこにこと笑いかけた。  どこか胡散臭い笑顔の瀬能と、相も変わらず表情に乏しい大神と…… 「出す 言われても……」 「提示した金額で足りないと言うのならば、店を持たせてやる、待遇のいい働き口でも構わん」  大神は溜息を吐くのをごまかすように煙草を咥えるから、火を ととっさにライターを出したが、さっと手を振られて拒否される。   「お前もそろそろ違う道を探す時期だろう」 「  ゃ、それって、  オレのこと年増や  言う   」  言うのだろう。  ずっとその場で足踏みしている間に、すべては変わって過ぎ去った。 「愛人 なれ、言うん?」 「間に合っている」  溜息のように長く出される煙はいつものツンとくる、日本では馴染のない香りだ。  最初は胃がムカムカするような臭いだと思っていたけれど、よくよく嗅いでみればどこか和歌が吸っていた煙草の香りに近いような気がする。   「返事はどうした」 「あっ  や、やって……こんないきなりこんな話されるなんて思ってなかったし」  いつものように食事をして、一方的に自分が喋って……って内容だとばかり思っていた。  それが、自分の今後に関わる話をされるなんて思わなかった。 「お前はあるオメガの前で発情すればいい。セックスはするな、ただ発情だけしていろ」 「んな無茶な  」 「そうすればお前は大金と店を手に入れて、しまいだ」  言いながら手をぽんと叩くように合わせた行動は何だったんだろうか?  しまい は、仕事を辞めるという意味か……研究から離脱なのか、それとも人生がおしまいなのか……あの大きな手で挟まれたら、人間の頭なんて弾け飛んでしまいそうだった。 「返事は……急ぐんか?」 「できれば」 「や……こんな美味しすぎる話、普通はないで? 何か下心があるんやないかって思うてもおかしないやん!」  ふぅー……と大神は紫煙を吐き、灰皿に煙草を押し付けてから次の煙草に手を伸ばす。  今度はライターを差し出さなかったが、大神は気にした様子もなく自ら火をつけて深く吸い込んだ。    

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