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はいずる翼 103

「報酬には口止めの分が上乗せされている。それだけの話だ」 「そ、れ  」  話を聞く限りだとΩの発情が伝染するのか を調べるためだという話だったが……大神が口止めと言うと途端にきな臭くなってくる。  口止めじゃなくて口封じじゃないのか なんて、冗談でも言えない雰囲気だ。   「あ! 違うよ、実験に参加してくれる中に、オメガシェルターで保護して、戸籍から新しくした子がいるからってだけで、やましかったり危険な研究ではないからね」 「……戸籍、から」 「うん、オメガだとわかった途端捨てられてしまう子もいるし、以前のご家庭から逃げるために戸籍を隠す必要がある子もいるし   」 「その実験には……小さい時に誘拐されたりした子もおるんか?」  そろりと口に出した言葉は自分にとってはこれ以上ないほど重くて、瀬能が答えを言ってくれるのを待つ間は一瞬だったのに、手はびっしょりの汗をかいていた。  跳ねるような心臓を押さえるために呼吸を止めて、ごくりと唾を飲み込む。 「勿論、生まれた時に連れていかれた子もいるよ」  握りしめた手がぎちぎちと音を立てる。  顔には出さないようにと努めたけれど、真正面の大神が気づいたかどうかまではわからなかった。 「    な、 なんや、きな臭い話やな」  震えた拳を腿に押さえつけて堪え、あえておどけるように言ってはみたが…… 「そうかな?」 「やって、ヒートになるだけでそんな……大金や店やなんて、あり得へんやん?」  それにもし、今度こそ と思ってダメだった場合は?  くたびれて、擦り切れて、やっと諦めがついたというのに、ここでまた希望を掴んでしまったら?  大神の傍に居ればまだ望みはあるって……  希望を持って取り上げられて、期待して期待して期待して……その先にあるのは、今より擦り切れて起き上がれなくなった自分だろう。  そんな未来ばかりが見える気がして、思考を追い払うように目を閉じてみると心にぽっかりと浮かび上がってくるのはミクの溌剌とした笑顔だった。  自分が望んで掴み取った先にある笑顔は、へにゃりと失敗した笑顔とは比べ物にならないくらい、可愛いと思った。    「  ちょっと考えさせてもらっても、  ええかな」  とっさに出た言葉に自分自身で目をぱちりと瞬かせた。  飛びついて子供を探すのが正解だとわかっているのにどうしてだか返事ができず、自らで取捨選択を考え抜きたいという思いが心に強く沸き起こっていることに気づく。  状況に流されて選んだんじゃない、自分の意思でどうしたいのかを考えたい。  だから、返事を急かされているってわかっているのに、頑として首を縦に振らなかった。

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