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はいずる翼 108
和歌の送ってきた計画書を繰り返し読んで、オレの役割のその先が書かれていないことに気づかなかったわけじゃない。
ヤクザが政府によって潰されて久しいと言うのに、それでも薄暗い噂のついて回る大神にたてつくようなこんな計画に参加して、無事に戻ってこれるわけがないのはなんとなく頭の隅で理解していた。
この計画が動き出して、和歌が監禁されていた子を救い出して、……そして? そしてオレは?
小さなメモには計画のことしか書かれておらず、それ以外のことを書くスペースはあるはずなのに、一言も添えられてはいなかった。
「 オレは、きっとここでおしまいなんやな」
和歌と関われて、子供を一目見ることができるのだから、その代償を払うのは当然だと納得した。
人生の大半をかけて追いかけ続けていた子供に会える。
だから、これ以上望むことはバチが当たってしまう。
運命の番である和歌がアルビノのΩを連れてこなければならないというのならば、それに従うしかない。
そしてその傍にしずるがいるというのなら、それが和歌なりの会わせ方なんだろう。
オレを大神の傍に居るしずるに会わせるには、そうするしかなかったんだ。
だから、その結果が意味することを……和歌は飲み込むしかなかった。
オレの願いを叶えるために。
きっと、そういうことなんだ。
それなら、納得できる。
「 ──── ああ、直江さん? 今、待ち合わせのとこにおるんやけど。ここからどう行ったら実験するっていう家に行けるんかな?」
連絡用の番号に電話をかけると直江が出る。
「はい」
「うち、方向音痴やから 」
そう言おうとしたオレの前に黒塗りの車が滑り込んできて、後部座席の窓がわずかに開いて大神の鋭い目が覗く。
「乗れ」
「あ、はぁい」
電話の向こうに「お迎え来たから」って言って切り、触れるのも怖いくらいにぴかぴかに磨き上げられた車の扉を開ける。
そうすると大神が吸っている煙草の臭いがきつく香って……
「煙草の吸い過ぎは体に毒やで?」
緊張しているのがバレないように極力普段の口調でおどけるように話しかけてみるが、大神は相変わらずむっつりとした表情のままだ。
「どしたん? ご機嫌斜めやん?」
「仕事を辞めたそうだな」
「大神さんの言う通り、もううちも年やしなぁ」
「部屋を引き払ったと聞いた」
「あ、やって、実験の間はそっちが用意した部屋に住むやん? 家賃もったいないし」
「家具家財もすべて処分したと」
「どうせなら引っ越した先で新しいん揃えるんや! ええろ?」
ふぅ と吐かれた紫煙が体に絡みつく。
「まるで自殺準備だな」
感情のこもらない言葉、抑揚の乏しい口調、平坦なそれは思いのこもっていない感想だけに適格だ。
「心機一転 するんよ」
赤ずきんの狼との押し問答を経て、オレはこれからこの男に食い殺されるのだろうと覚悟を決めた。
END.
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