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落ち穂拾い的な 間に合わなかった3
同時に感じた激痛にチカチカと目の前に火花が飛び散る。
血の味のする歯を噛み締めて手錠からなんとか手を引き抜くと、ぶらりとしたまま動かそうとしてもうまく動かなかった。
「 っ」
駆け寄った扉を蹴破るようにして飛び出し……辺りを見回してそこに見覚えがないことに気づく。
けれど、見覚えがないそこは確かに見知った場所でもあった。
「……研究所 か?」
自分が立ち入ったことのないエリアだというだけで、その雰囲気は以前に訪れたことのあるそこのものだ。
白く無機質な壁と床、どこを見ても同じような扉と……
そこかしこにつけられている監視カメラがすぐに俺の脱走を知らせるだろうから、ずっとここにいることはできない。
痛む腕を庇いながら歩き出して……なんとか外への道を探す。
「ここの区画は……」
自分にも立ち入る権限のないエリアだ と、左右を注意深く見ながら呻く。
「……スペシャル ナンバー…… 」
各部屋にはそう書かれたプレートが貼られていて、その末尾にWやらB、ZやLなどと言った文字が付けられている。
それが何を示すか、好奇心はあったが今はそれに構う時間はなかった。
その扉の前を通り抜けようとした時、とんとん と扉の中からノック音がする。
「……」
普通は、扉の内側からノックが聞こえることなんてない。
ましてや薄くはない扉を挟んで、気配を潜めた俺に気づくはずがなかった。
息を飲んでいると、
「 ────とんとん」
と、言葉でノック音を真似る声が上がった。
「とんとんとん、左側だよ」
その言葉は俺が誰か、何をしているのかを尋ねる代わりに一方的にそれだけを言って沈黙してしまう。
たまたまタイミングが合っただけで、この中に閉じ込められている人間の妄言だったのか とそろりと足音を立てないように歩き出す。
「ばいばい。おにいちゃん」
さっと振り向くけれど、扉の向こうからはそれ以上の言葉は出てこない。
扉の向こうに人がいたとして、確率としては二分の一なのだから「おにいちゃん」と言われてもおかしくない話だというのに……
それが心に引っかかったのか、足がわずかにもたつくように感じる。
けれど、今自分が気にかけなくてはならない先は若葉だ。
研究所の人間に見つかる前にここを出て、若葉の元に戻らなくてはならない。
最後に見た真っ白な横顔と溢れた血を思い出すと、膝から崩れ落ちそうになるけれど歯を食いしばって足を動かす。
若葉は助かったのだと、自分に言い聞かせながら見つけた階段に足をかけた。
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