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落ち穂拾い的な 間に合わなかった4
いつもなら、ここに来るまでにおかしく思わなければならなかったのに、左腕の痛みのせいか、それともズキズキと疼くように痛む顎のせいか判断が遅れてしまった。
階段を二階分上がったところで、あまりの静けさに胸騒ぎを感じた。
ここは確かに騒ぐような場所ではなかったけれど、だからといって一切音がしないような場所ではない。
さっき扉越しに聞いた声が最初で最後の人の声だった と思い返して、思わず足を止める。
心を落ち着けようとしても勝手に早くなっていく脈拍が邪魔をする、何が……とはっきりとはわからなかったが、本能的なものか経験からのものかはわからなかったけれど、静かな何かが起こっていると直感が告げた。
急いで階段を三階分上がり、どうしてそちらかかわからないが左に視線をやる。
左手が脱臼して動かなかったためにそこを庇おうとしていたかもしれなかったが、耳の奥に残った扉の向こうの声のせいかもしれなかった。
どうしてだか、左側が気にかかった。
足音に気を付けるよりも駆け出すように進むと、中途半端に開かれた扉が目に入り……そして、そこに倒れ伏す研究員が目に入る。
そんな場所で倒れている相手に、到底平和なことが起こっただろうとは思えない。
駆け寄らず、さっと壁に身を寄せて辺りを窺い……機械の音だけがするのを確認してそろりと一歩踏み出した。
血が流れているということはなかったが、その研究員が生きているのかはわからない。
その研究員を避けるようにして部屋の中を見ると……
「……あか、ん ぼう?」
研究に役に立つ年齢になるまで、Ωの子供は一般家庭の子供として育てられるのがここの研究所の常で、生まれたての赤ん坊がいるのは珍しいことだった。
二つの保育器が並ぶその部屋から、視線を外すことができない。
ぶる と震えが駆け上がる。
もし、そう だとしたら?
そこにいるのは、あの時に高橋が連れて行った子供ということになる。
俺の……、俺と若葉の、子。
高橋のモルモットを見るような目を思い出す、怪我のことを忘れて保育器に飛びついた。
「 っ⁉」
中にいたのは随分と小さい……けれど、小さな手をしっかりとこちらに見えるように突き出す赤ん坊だ。
名前の通り真っ赤な肌は薄く血管を透けさせ、マッチ棒のように思えてしまう細い手足を動かしている。
小さい体なのに力強さを感じる姿に、αだと直感で理解した。
自分と同じバース性を受け継いだ、自分の子供だと、小さな体だというのにしっかりと嗅ぎ分けることのできたフェロモンで理解する。
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