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落ち穂拾い的な 間に合わなかった7

 けれど、その声が音の通りではないと俺は知っている。  抵抗していた腕から力が抜けて、押さえつけられるがままに膝を突く。  下げた視線の先に揺れる長い神官服は白地に紫と金の縁取りで、相変わらず趣味が悪いと思う。   「戒訴や。素晴らしいことをしたね、これで我らの研究はもっと早く進むことだろう」 「   っ、わ、た  しは  っ」  血まみれの小さな体を脳裏に刻みながら声を上げた瞬間、目じりに皺を刻む穏やかそうな目が覗き込んでくる。  日本人にしては明るい瞳のソレは、自分と同じもののはずなのに以前に見かけたバケモノのような底のない虚のようだ。 「あ、の子は、私の、娘 で、あな た、の   ま   」 「選びなさい」  俺を映す目が弧を描く。 「あの娘を差し出すか、アレの母体ごと差し出すか」 「な  」 「卵胞が手に入ればこちらは娘でも母体でも構わないだから」 「  は   」  鈍い色をした瞳は自分を映していたはずなのに、気づけば何も映してはいない。  狂気に……いや、αの本能に塗り込められたそれは自分の番以外を映すようにできていなかった。  幾らその赤ん坊が孫だと告げても、幾ら若葉が俺の愛した相手だと言っても、この男には届かないと痛感させられる。 「私の慈悲だ。選びなさい」  長くゆったりとした袖から手が伸び、小さな子供にするようにぽんぽんと頭を撫でて…… 「この研究の先に私が運命と番えると証明できれば、お前の運命も変わるだろう」  実際はどうだか知らないが、慈愛を込めたような声だ。   「我が一族の、『運命と結ばれなくてもいい』というオメガの祝福を、必ず、必ず、私は覆してみせるよ」  さっと腕が体に回されたために、父の……いや、αの臭いで目が回りそうになる。  普通のαとは一線ずれたような不協和音を思い起こさせるような不快なフェロモン。  逃げ出そうとして体をひねると絡むヘビのように腕が締まっていく。 「私は運命を取り戻してみせる」  不快なフェロモンが皮膚の上を這いずりまわる。  さながら地獄から這い出してきたかのようなひやりとする気配は体の底まで凍らせそうで……  た と雫が落ちる音がする。 「俺  は、若葉も、 むす め、も    」 「ああ、戒訴や。可哀想に」  慈愛に満ちたように見える微笑で父は優しく、突然流れ始めた鼻血を拭う。  白と紫と金の趣味の悪い袖に赤色までついて……目が眩むほどの鮮やかさに目を瞬いた。    更にボトボトと血の落ちる音がして、頭蓋骨の中がその音で満ちていく。   「辛いだろう。『選んで』『楽に』なりなさい」  慈愛の声が血の音に混じって頭蓋を内側を撫で上げる。  

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