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落ち穂拾い的な 間に合わなかった8
「 わか、ば 」
脳味噌を手でこねられているかのような不愉快な感覚と世界の音を覆うかのような血の流れの音に、意識が押し流されて……目覚めた時にはすべてが終わった後だった。
隠した息子は見つからなかったようだが娘の行方はわからず、若葉はいい加減な治療で死にかけていた。
親ならば子を選ばなければならなかったのかもしれないのだろう、けれど意識が途切れる瞬間に俺が選んだのは若葉で、幾度繰り返してもそれは変わらないだろう。
あれだけ軽蔑していた男と同じように子供を捨てて自分のΩを求めて、それでも若葉の傍に居続けることができるほど厚顔ではない。
ましてや、このまま俺が傍に居れば若葉は間違いなく死ぬだろう。
「オメガの、祝福、か」
父のようにいっそ狂ってしまえば楽になるのかもしれないだろうけれど、そうさせないのは自分が切り捨てた子供達だ。
俺や父の手を離れたとしても、血筋が変わるわけじゃない……脈々と続いてきたこの血の呪いは受け継がれていくはずだ。
「……」
ゆっくりと手すりから身を乗り出して……傍から見たらまるで今から飛び降りるぞ とでも脅しているようだと思い、薄く笑った。
向かいの棟の、四角く切り抜かれた窓の中に若葉が見える。
小金井が窓を開けてくれていたため、未だベッドから起き上がることのできない姿がよく見えて……
「若葉……」
死にかけていた若葉をあそこから連れ出せたのは小金井の協力あってのことだったし、その後のことも請け負ってくれると言ってくれた。
小金井とは金が間に入る間柄とはいえ、あの状態の若葉を預けることができる相手が他におらず……若葉の実家、それから父のことを思い出すと自然と顔が歪む。
窓から見える若葉は外から入る風が冷たいからか、掛け布団を握り締めていた。
「ここにいたら、窓を閉められないよな」
もう少しだけでも見ていたかった気持ちを押し殺して、そっと手すりから手を離す。
一歩引いて……それでも視線は名残惜し気に若葉へと残る。
一人は他人の家の赤子として、もう一人は生死もわからないまま血まみれの姿が最後だった。
あの光景を若葉に話す勇気がないのは、俺が子供と若葉を天秤にかけて選んでしまったからだ。
自分の選択の先に子を失って、それでも若葉を失いたくなくて口をつぐんで……それなのに、若葉を完全に手放してやることもできなくて……
「…………ごめんな」
頃合いとみたのか、小金井は窓に手をかけてさっとこちらを見上げてくる。
それに小さく頷いてみせてから、俺は踵を返した。
END.
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