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落ち穂拾い的な 術後
目を閉じたままのみなわを眺めて、どこかに自分と似たところがあるかと探る。
幸薄そうな雰囲気は変わっていなかったけれど、初めて出会った時よりは少しふっくらとして見えた。
それが、長年探していた子供であるオレと出会えたためだけでないのは、最近のみなわを見ていたらすぐに気づくことだった。
みなわのようにどこか影を背負ったような華奢なΩの御厨は、酷くα……というか人間を怖がっているように見える。
首の噛み痕が痛々しいほど粗いせいか、それとも庇護欲をそそるΩらしい体質なのか……
とにかく、御厨がみなわの支えになっているのだと、割とすぐに分かった。
ブギーマンから捨てられて十数年間、それでもあの男のために と生きて来たんだろうみなわが、御厨を前にすると華やかに笑う。
斜に構えたような人をからかうような笑みではなく、自然と零れた可愛らしい笑い方だ。
別に、今更オレの父親なのに とか言う気はないから、その二人の間にある空気感が微笑ましいし好ましい。
αと離れ離れになったΩ達の新しい道筋を見た気がして嬉しくなる。
「ああ、しずるくん、来てたのかい?」
病室の扉を開けて、驚いたように言うけれどオレがここにいることはとっくに報告されているはずだ。
「あー……まぁ、気になるじゃないですか。医者がヤブだったら大変なんで」
「執刀医がぼくだってわかってて言ってる?」
苦笑しながら片眉を上げて見せると、瀬能は持っていた膿盆をオレへ差し出してくる。
ガーゼの上に置かれたピンク色の物体に、思わず身を竦めて息を詰めた。
なんの心構えもできてないのに、何を見せるんだ!
「彼の腹から出て来たものだよ」
「……取って、大丈夫だったんですか?」
「うん」
そう言うと膿盆を左右に軽く振り、中身をコロコロと転がす。
目の前の見慣れたものは……歯だ。
鋭さと、歯から感じる圧迫されるような気配を考えると……αの歯だろう。
「……あのおっさんの……仙内の歯ですか?」
「多分」
みなわが仙内の話をする時だけ異常に目をギラギラさせていたことを思い出し、不快感に胸を擦った。
「なんで、そんなモノを……?」
「どうしてだと思う?」
いつものように、こちらが尋ねているのと問い返してくる。
「わ、わかんないですよ。じゃあ! 瀬能先生はわかるんですか⁉」
たまには言い返してやれ! と、むっと唇を歪めながら尋ねた。
瀬能は気持ち悪いと思わないのか、血まみれの歯を矯めつ眇めつ眺めてから小さな子供のようにぱっと笑う。
「項を噛むことなく、Ωを奴隷にするため かな」
自分のセリフが気に入ったのか、瀬能はぶつぶつと咥内で言葉を繰り返すと、薄い笑みを貼り付けたまま病室を出て行って……俺は居心地の悪い思いをする羽目になった。
END.
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