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壁の中のラプンツェル5
そんなセキに対して大神は、「二メートルはない」と本人は言っている身長に、隆々とした筋肉が全身を取り囲み、まるで野獣のような雰囲気だった。
頭一つ分以上高い大神と触れると壊れそうなほど華奢なセキは、体がすべてを受け入れようとして柔らかくなる発情期以外は、挿入を伴うセックスに成功したことがなかった。
「それでなくともお前のヒートはきついのにか?」
「……っ、で、でも 」
「管理せずにふいにヒートになったら?」
太い指で顎をぐいと持ち上げられ、セキは驚いて身を縮める。
「街中でアルファどもに襲われるのが趣味か? 代わる代わる見も知らない奴らに股を開きたいと?」
「そ、そんなこと言ってないです! オレはっちょっとでも大神さんと一つになりたいって言うか……」
指先に込められた力の強さに、セキは駄々をこねるようにして首を振って逃げようとした。
それでも大神の手は回り込むようにして顎を掴んだ。
「……大神さんの子供、欲しいです」
セキが服用している抑制剤には避妊効果もある。
だから、大神がセキの抑制剤の服用を徹底的に管理していることに、セキは当然だと理解しつつも飲み込み切れない寂しさがあって……
ぱしん! と大神の手を振り払ってセキが身を乗り出す。
「オレに赤ちゃんできたら迷惑なのはわかってます! ……に、妊娠したら、……もう大神さんの目の前に現れないですし、子供もオレ一人で育てます! 養育費とかもらわないんで心配しないでください。だから種だけっ! 種だけオレにください! ぶすっと刺してちゅっと出すだけでいいですからっっっ! 迷惑かけませんからっ」
大神は内容が一切頭に入らなくなった書類を放り出し、自分の胸の上で「種を寄越せ! ギブミータネ!」と声を上げているセキの方へと向き直る。
「子供ができると迷惑だと、誰が言った」
「お 覚えてますもん……最初に…アフターピル飲ませてきた時」
「迷惑と言った記憶はない」
「大変だって言った!」
「大変と迷惑では話が違うだろう」
「う?」
セキは大神の言葉にむっと唇をひん曲げながら、よくわからないとばかりに首を傾げた。
「大神さんが大変になるから迷惑なんでしょ?」
「大変なのは、お前がだ」
「う?」
大神は溜息を吐く代わりに枕元の煙草を引き寄せて口に咥える。
「あんな貧相な体でガキ作って、 お前に何かあったらどうするつもりだ」
「オレ に?」
「あと、毎回毎回孕んでたら育児に追われて大変だろうが」
「まい かい? オレの体のこと心配してくれてたの? 育児が大変ってくらい、産んでもいいの⁉」
大神に飛びついたセキに向かって、大神はふぅー……と独特な匂いの煙草の煙を吹きつけた。
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