521 / 698
壁の中のラプンツェル6
「ガキは好きじゃあない」
「 ────っ そ、れじゃあ、やっぱりダメってことじゃないですか」
癖の強い煙草の香りのせいか、それとも話の着地点が望んだ場所でなかったからか……セキは燻るようだった体の熱が下がってしまったことに項垂れる。
発情期が近いせいで、ムラムラする心のままに大神に無茶苦茶なことを言ってしまったと、反省をして大神の上から降りて布団にくるまるようにしてうずくまった。
布の間からわずかに零れた黒髪を、大神はそっと掴んでその感触を楽しむように弄る。
さらりとして美しく繊細なそれは思い通りに形を変える癖に、するりと指の隙間から逃げ出して広がる……まるで自由なセキをそのまま表しているようで、大神は小さく口の端を歪めた。
「────もし、もしですよ。すっごい低確率で唐突に起こったトラブルとかでオレが妊娠したら、どうします?」
神でも絶対はないと、セキは万が一の可能性をそろりと口に乗せてみる。
黒髪を弄っていた手が一瞬ぎこちない動きをみせ……セキはそのわずかな戸惑いが答えなのだろう と、胸元の布団を更に力を込めて握り締めた。
「 はは、ごめんなさい。そんなの、あり得ませんし、あったとしたら……さっきみたいなことが起こってできた、大神さん以外の人の子供ですよね」
「おい」
さっと体を覆った圧迫感にセキは驚きながらもますます身を縮めた。
低い声は苛立ちを含んでいるのがわかるような震えを帯びていて、大神の不興を買ってしまったのは明白だ。
大神は厳しかったけれど怒ることは滅多にないから、セキはその雰囲気に飲まれて息を吸うのも躊躇い、はくはくと打ち上げられた魚のように唇を動かして謝罪を言おうとする。
「ふざけたことばかりをほざくな」
「 っ…………ご、ごめんなさい……しつこかったですよね。……もう、言いませんから」
大神にのしかかられると小さなセキはあっという間に覆い隠されてしまう。
それはさながら、狼の胃の中にいるようで……大神を怒らせたというのにどこかふわふわとした幸せを感じる。
粗い造りの顔に険しい表情を乗せると誰もが恐れるだろうに、セキは思わず照れくさそうに微笑んだ。
「おい」
「すみませんっでも、だって、この位置で大神さんに叱られた人なんていないでしょ?」
怒りを見せていたはずなのにそんな態度を取られて、大神は眉をぎゅっと歪めてからため息交じりに体を起こした。
肺にわずかに残っていた煙草の煙が押し出されて、つん と日本では馴染まない香りがセキの鼻先をくすぐる。
ともだちにシェアしよう!

