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壁の中のラプンツェル7

「怒る気も失せる」  圧し掛かられているのにへらへらと笑うセキに、大神は毒気を抜かれて呆れた感情を滲ませながら体を起こす。  指に挟んだままだった煙草を灰皿へと押し付けて、セキの鼻をぎゅっと摘まむ。 「ひたぃ! 痛いですってばっ」 「落ち着いたなら、もう寝ろ」 「大神さんは? 寝ないんです?」  摘ままれた鼻を擦りながら寝る体勢を整えたセキはちらりと視線を投げる。  人に寝るように言っておいて、大神の手は先ほど放り出した書類を掴もうと伸ばされたところだった。  セキは、仕事を邪魔する気はなかったが、ろくに休みも取らずに体を壊すような仕事のやり方には反対していた。  伸ばされた手を掴んで、くるんと抱き込むようにしてベッドへと寝転がると、セキは「寝ましょ!」と無邪気に言う。 「俺は仕事が   」 「もうこんな時間ですよ? いつもいつも夜遅くまで仕事して……体壊しちゃいます! どうしてそんなに仕事をするんですか⁉」 「   ……」  理由を答えようとして大神はむっと押し黙る。  それは、セキに話すべき事柄ではない と。 「……お金、が、いるんなら……オレが働きますよ? そりゃ、大神さんほど稼げないかもですけど……大神さんがしろって言うなら、体だって 売るし ……な、内臓だって   」    ちょっと怖いけど と呻くセキの鼻を、大神はもう一度ぎゅっと摘まんだ。 「なんだ、それは」 「オレっ体力あるからいっぱいお客を取れると思います! だから、それでお金稼いで大神さんを養いますからっ……もう少し、体を大事にしてください!」  細い腕がさっと大神の体にしがみついて……いや、大神の体を抱き締めて、小さな子供をあやすようにとんとんと優しく叩く。  間接照明の明かりを受けて黒い瞳を柔らかく青に光らせながら、セキは「大神さんは頑張りすぎです」と少し怒りを滲ませたような声で言う。 「オレを使ってください。しろって言ってくれたらオレはなんだってします。大神さんを守るためならオレはなんだってできるから」  大神をあやし続ける手は細く、拳にしても頼りないと思わせる。  抱き締めてくる腕も筋肉が盛り上がっているわけでもなく、細く弱弱しい。  取っ組み合ったらあっさりと取り押さえられてしまうような、そんな華奢な体をしているのに……自分よりもはるかに大きく恐ろしい大神を守ろうとしている。 「なんだって我慢できます」 「…………俺は、そんな甲斐性なしに見えるか?」  抱き締めてくるセキの腕の隙間から漏らされた言葉は苦みを含んでいたが笑っているようでもある。

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